ポタオデと音楽

ポータブルオーディオ機器と音楽についての感想・レビューをぱらぱらと。

Astell&Kern SOLARIS X

[レビュー] Astell&Kern SOLARIS X

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■製品仕様・特徴など

Astell&Kernブランドで販売されていましたが、製造自体はCampfire Audioによるもので、同社のフラッグシップモデルであるSOLARISをベースに、搭載ドライバの変更も含めた特別チューニングが行われた、日本では限定30台の貴重なモデルになります。

3ドライバ 3ウェイ で中低域にダイナミックドライバ、中域と高域にBAドライバを使用する比較的シンプルかつ典型的なハイブリッドタイプのドライバ構成で、通常モデルのSOLARISと比較すると、高域用のBAドライバが2機から1機に減らされていますが、その代わりにSOLARIS X用に特別設計されたカスタムBAドライバが搭載されています。

筐体はCampfire Audioらしいメカニカルでシックな金属筐体と、Astell&Kernらしい高級感のある深紅のフェイスプレートが組み合わさっており、全体的にはハイエンドにふさわしい質感の高さを感じさせます。

純正付属ケーブルとして質の高いALO AudioのPure Silver Litzケーブル(MMCX - 2.5mm4極バランスプラグ)が付属している他、3.5mmアンバランス接続用に同じ線材を使用した2.5mm - 3.5mm変換ケーブルが付属するのは嬉しいポイントです(可能であれば2.5mm - 4.4mm変換ケーブルも付属して欲しい所でしたが。。。)。Pure Silver Litzケーブルは細めで非常に柔らかく取り回しに優れ、音質的にも際立ったクセが無く非常に使いやすいケーブルで、ほとんどの人はリケーブルの必要性を感じないのではないかと思います。

Astell&KernのDAPなどに合わせてチューニングされたとのことで、デザインだけでなく音質面についてもオリジナルのSOLARISからどのように変化しているのか非常に興味深いです、

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 :  ALO Audio Gold 16 IEM Cable MMCX - 4.4mm5極バランス

・イヤーピース : SednaEarfit Crystal

■サマリー

・[モニター] - - - - 〇 [リスニング]

・帯域バランス : 低域 > 中域 = 高域

・音場 : [広] - 〇 - - - [狭]

・定位 : [正確] - - 〇 - - [曖昧]

・解像度 : [良] - 〇 - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] - - - 〇 - [悪]

・装着感 : [良] - 〇 - - - [悪]

■全体的な音質傾向

一言で言うと、ハイブリッド型らしく低域はズンズン、中域は近くでクッキリ、高域は鋭めにシャンシャンと、全体的に派手めで臨場感、躍動感に溢れた鳴りのリスニング特化モデルです。

各音のエッジ、粒立ち感は特別強調されてはおらず、自然な鳴り方に感じます。

音の太さについては特に低域と中域が太めで密度感があります。一方で高域の線はそこまで太くなく、どちらかというとシャープで鋭い鳴り方に聞こえます。

音の響き、余韻の表現は豊かで、元の音源にプラスアルファの空間の広がり感や音に包まれるような臨場感を付与しているように感じます。その反面、定位感はハイエンド機にしては若干緩めで、ある程度大きな空間から鳴っているように感じます。

非常にリスニング寄りの出音で、原音に忠実に鳴らすというよりも、自身のキャラクターで濃いめに味付けして鳴らす印象で、開放感ある広めの音場表現や、各音の響き、余韻の豊かさを武器に、音源の臨場感や躍動感を引き出すのが非常に得意なイヤホンに感じます。

■帯域バランス

低域 > 中域 = 高域

帯域バランス的にはダイナミックドライバが割り当てられた低域、中低域の量感が豊かで、それにしっかりと下支えされる形で伸びやかに中域と高域が鳴る印象を受けます。

低域はダイナミックドライバらしくローエンドまでしっかりと出て、量感も豊かです。輪郭は多少甘くどちらかというと広がりのある傾向ですが、位置的にボーカルなどの中域とはしっかりと距離を置かれた位置で鳴るため、他の帯域に干渉して篭りを感じるなどの悪影響は感じません。

中域はBAドライバらしい明瞭な鳴り方で、低域と比べるとハキハキとして多少固さを感じることもありますが、つながりの悪さなどの違和感を感じるほどではありません。低域が主張してくる中でもセンターに位置するボーカルはかなり前に出てきて聞き取りやすいですが、左右に振られた中域の楽器群の音はボーカルと比較すると多少ぼやけてまとまって聞こえることがあります。

高域については中域以上にBAドライバらしい硬質で金属的な鳴り方で、他帯域と比較すると線も細めのため鋭さを感じることがあります。伸び自体も良い印象です。これを高域が鮮明で良いと取るか耳障りと取るかは好みの範疇の話かと思います。

■音場・定位・解像度

イヤホンの平均からすると音場はかなり広く開放的に感じます。良く沈み広がる低域と良く伸び明瞭な高域とで上下に引っ張られる形で、特に縦方向に広く感じます。横方向への広がり感も十分に良いですが、縦方向と比較すると音数が多い場合などには左右に振られた楽器群の音が混ざるなどで多少の窮屈さを感じることがあります。

定位感はハイエンドにしては甘めで、広めの空間から音が響いているような多少滲んだ鳴り方で、音の発生源が正確に定まっているという印象は薄いです。

解像度については十分良く、ある程度の音数までであればしっかりと分離して鳴らし分け、各音のディテールの描写も中域、高域については十分細かいです。ですが、甘めの定位感と太めな音の兼ね合いで、音数が増えてくると特に左右に振られた中域の楽器群がごちゃついてくる印象があります。

■音漏れ・遮音性

イヤホン本体に大きめのベントがあり、そこからかなり大きめの音漏れがあります。更に良くないことに、ノズル部分を塞ぐと音の抜け道が少なくなるせいか、より激しく音漏れするようになります。筐体内の空間での音の響きを利用したチューニングとなっていることがありありと伝わってくるようです。

また、本体のカナル部分がかなり長めに設計されており、装着時に筐体が耳に密着せず浮いている状態になるため、遮音性については完全にイヤーピース頼りになり、筐体自体も密着して耳穴を塞ぐモデルと比較すると遮音性は劣りがちとなります。

総合すると、遮音性は平均程度から多少悪い程度で、音漏れに関してはかなり大きめのため、騒音下での移動(電車など)を伴うポータブル利用には向いていません。

■装着感

ステム部が長めに作られているため、イヤーピースの選択さえ間違えなければ装着できないということは少なく、他のCampfire Audio製品のような角張りも無い滑らかな形状のため、比較的快適な装着感を得られると思います。筐体自体の大きさも初代のSOLARISから小型化されており、よほど耳が小さく無い限りは大きさが問題になることは無くなったのでは無いかと思います。一方で、耳のくぼみ部分へのイヤホン本体の密着度が乏しく、イヤーピースとケーブルの耳掛け部分で本体を支えるかたちになりがちな点は問題かもしれません。

■その他、備考

Campfire Audioの製品には興味はあるのですが今までほとんど聞いたことが無く、SOLARIS XがCampfire Audioらしい製品なのかそうでないのかはわかりませんが、音の傾向としては非常にリスニング寄りで楽しく音楽が聴けるため好きなタイプです。しかし、密閉型イヤホンとしてはかなり大き目な音漏れのせいで、もともと想定していたポータブル用途での利用が難しそうなことから、購入後 1~2時間程度の試聴だけして以降は保管しているだけの非常にもったいない状況になっています。

あまり音量を上げずに聞く人にとっては、音漏れが問題にならずポータブル用途での使用もできる可能性があるため、そういった、しっかり使い込んでくれる方にお譲りできたらと考えています。

VISION EARS Elysium (Custom)

[レビュー] VISION EARS Elysium (Custom)

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■製品仕様・特徴など

ElysiumはVISION EARSのフラッグシップ級のモデルで、定価30万円越えのモデルにしては珍しく、1BA、1DD、2EST の 4ドライバ 3ウェイ と比較的ドライバ数は控えめでシンプルな構成をしています。昨今流行りのトライブリッドモデルですが、低域にBAドライバ、中域にダイナミックドライバを割り当てるという一般的なハイブリッド構造とは逆になっているのが興味深いです。開発者曰く、BAドライバの低音が好きなのでそうしました、とのことで、一般的な流れに逆らってでも自分の良いと思う音を追求する姿勢は職人的な気質を感じ好感が持てます。ダイナミックドライバを搭載しているにも関わらず、VISION EARSの他のフルBAタイプのイヤホン同様筐体にベントは無く、樹脂充填シェルが採用されています。このあたりは、ダイナミックドライバが低域再生では無く主に中域再生を担うため、ハイブリッド構造において一般的にダイナミックドライバに求められる、良く沈み込み量感のある低音を表現する必要が無いということや、HALC (High Precision Acoustic Leveling Chamber)と呼ばれる音響調整モジュール技術の採用により実現されているのでは無いかと思います。

VISION EARSにしては珍しく、BAドライバ以外の種類のドライバを組み合わせたモデルで、今までのVISION EARSらしさを踏襲した音なのか、それとも全く新しい傾向の出音を実現しているのか、非常に気になるところです。

VISION EARSの他のモデルと同様に、ユニバーサルタイプとカスタムタイプの両方が販売されていますが、今回は他人の耳型で作成された中古のカスタムタイプのElysiumに、ユニバーサルタイプのようにイヤーピースを取り付けて使用するというちょっと特殊な試聴条件になっていますので、その点についてはご注意ください。

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 : 純正付属ケーブル 2pin - 4.4mm5極バランス(変換アダプタ使用)

・イヤーピース : SpinFit CP155(真鍮リング取り付け)

■サマリー

・[モニター] - - - 〇 - [リスニング]

・帯域バランス : 低域 = 中域 >= 高域

・音場 : [広] - 〇 - - - [狭]

・定位 : [正確] - 〇 - - - [曖昧]

・解像度 : [良] - 〇 - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] - - - - - [悪] ※カスタムIEMのため未評価

・装着感 : [良] - - - - - [悪] ※カスタムIEMのため未評価

■全体的な音質傾向

一言で言うと、全帯域に渡って丁寧にチューニングされ、柔らかく滑らかで非常に聞きやすい自然な出音を実現している傑作です。

各音のエッジ、粒立ち感については少し抑えめで、非常に滑らかで柔らかさを感じる音作りですが、各音のディテールの描写の良さや分離感はしっかりと保っています。この点が、他のイヤホンではあまり見られないElysium最大の特徴であり魅力的なポイントと感じます。

音の太さについては平均的ですが、力強く鳴らすことよりも繊細な表現の方が優れている印象です。

音の響き、余韻の表現は十分で、特に録音の良いライブ音源などを聴くとしっかりと空間の中に音が広がる感覚が感じられます。

かなりリスニング寄りの出音で、非常に心地よく音楽に没頭することができます。音量を上げても耳に刺さるような刺激的な音はほとんど出さず、純粋に迫力や臨場感の向上を感じやすいため、ついつい音量を上げて聞いてしまいがちなのは耳へのダメージを考えると注意が必要かもしれません。

どちらかというと繊細な表現の方が得意な印象ですが、ロックなどを力強く鳴らすことも苦手とまではいかないため、心地よく音楽に浸りたい時に音源を選ばず使用できるのではないかと思います。

■帯域バランス

低域 = 中域 >= 高域

全帯域において量感に過不足がなく特定帯域の強調なども感じない、非常に自然なバランスの出音ですが、繊細でシルキーな質感の出音のせいか高域の主張はわずかに控えめです。

低域はBA型らしい制動が効いた輪郭がしっかり感じられる音色ですが、量感も必要十分である程度の自然な広がりも感じられるため、タイトになりすぎず非常に心地良い鳴り方です。サブベース帯域に関してはさすがにダイナミックドライバを低域に割り当てているモデルと比較すると控えめですが、そのおかげで低域をある程度スッキリと聞くことができるため、この点は好みが分かれそうです。

中域についてはダイナミックドライバらしい滑らかで生き生きとした自然な出音です。特別艶などが強調されることは無くすっきりとした聞きやすい音色のため、ボーカルに感情的に歌い上げて欲しいなどのある種の演出的な鳴り方を期待する場合には、少し物足りなく感じるかもしれません。

高域についても必要十分な量はしっかりと出ており、質感としても粒立ちが良く十分伸びも感じられますが、質感としては非常にシルキーで滑らかな出音のため、音量を上げていっても不快な刺さりなどが発生しづらく非常に聞きやすいです。シャンシャン、キンキンといった派手な鳴り方とは対極に位置する繊細な鳴り方のため、高域に鮮やかに響き渡るような鳴り方を期待する場合には好みと合わない可能性が高いです。

■音場・定位・解像度

音場はイヤホンにしてはかなり広めですが、特別音場の広さを強調して表現するというよりも、録音の良いライブ音源においてはその会場の広さ・空間をしっかりと表現するように鳴りますし、通常のレコーディング音源においては録音方法やマスタリングで調整された通りに素直に鳴るという印象です。

定位感は十分に良いです。前述した素直な音場表現と関連しますが、音源の録音・マスタリング環境を忠実に再現する傾向が有ると思います。

解像度については各音のディテール表現、各音の分離感のいずれも十分に良いですが、柔らかく滑らかな傾向の出音のため、その性能の高さの割には目立たない印象です。特定の楽器の鳴りが目立ちすぎて耳につくなどのことが無いため、個人的には非常にちょうどよいバランスで調整されていると感じます。

■音漏れ・遮音性

他人の耳型を用いて作成されたカスタムIEMのため未評価ですが、ベントが無い樹脂充填シェルであるため音漏れ自体は少ない傾向にあると思います。ただし、同社のフルBAタイプと比較すると、何に起因しているのかわからないのですが微妙に音漏れが大きい気がします。

■装着感

他人の耳型を用いて作成されたカスタムIEMのため未評価ですが、私はSpinFit CP155をカナル先端に取り付けることでユニバーサルタイプと遜色のない十分なフィット感を得られており、フィットによって影響が出がちな左右の音量バランスの崩れや低域の不足感なども感じません。

■その他、備考

VISION EARS Elysiumは音源を選ばず非常に心地良いリスニング体験が可能なイヤホンであるため、所有しておきたいと長らく考えており、実際にユニバーサルフィットタイプを新品で購入したこともあったのですが、訳あって手放してしまっていました。今回は中古のカスタムタイプを購入したこともあり、完璧なフィット感とはいきませんが、イヤーピースを使うことでユニバーサルタイプと同程度のフィット感を得ることができ、しかもそれが定価の1/3程度の価格で入手できたため、個人的には非常に満足しています。

Elysiumを購入検討するにあたり注意すべきことがあるとすれば、それは特定周波数帯域でノイズが発生することがあるということです。具体的には、1700 Hz~2000 Hzの帯域と3000 Hz~4000 Hzの帯域のあたりで回路が共振しているような高周波ノイズのようなものが乗る場合があり、全くノイズが乗らない個体から比較的大き目のノイズが乗る個体まである程度の個体差があります。しかしながら、上記周波数帯域でLR両側で全くノイズが乗らない組み合わせの個体には巡り合えておらず(今までに今回の個体も含めて4機ほど聞きましたが、いずれもノイズの発生が確認されました)、初期不良というよりもElysiumの回路構造の設計に起因する仕様となってしまっているようです。さすがにEmpire Ears Legend Evoの左右バランスの崩れほど酷いものではないものの、周波数スイープなどを行うと明確に判別可能なレベルであるため、完璧な製品を求める方は少なくとも新品購入は控え、しっかりと試聴してノイズが少ない個体の組み合わせの中古を購入するのが良いと思います。救いなのは、上記ノイズは音楽を聞くような通常使用の範囲においては、ノイズが目立ちやすい音数の少ない音源で特定周波数帯に含まれる楽器などがロングトーンかつ比較的大音量で鳴るなどの条件が合わさった際に、非常に注意していてやっと判別できるレベルに収まっているという点です。

上記のような気になる点はあるものの、音作り自体は非常に丁寧かつ良質で、聞き疲れしにくいリスニング傾向のイヤホンを求めている方にはぜひ一度聞いてみて欲しい傑作です。

中古カスタムIEMのススメ

[Tips] 中古カスタムIEMのススメ

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自分の耳型を取って作成するカスタムIEMはイヤホン沼にハマった人間にとってのひとつの憧れであり、一度は手にしてみたいと考える方も多いのでは無いかと思います。自分の耳型から作成されることもあり、装着感や遮音性はユニバーサルタイプと比較すると非常に良く、イヤーピースを使わないためよりダイレクトにイヤホン本来の音色が楽しめる傾向があり非常に魅力的です。

一方で、耳型を取る料金に加えて、イヤホン本体についても特注品となるため基本的にはユニバーサルタイプよりも割高ですし、注文から納品まで1~3カ月程度かかり、完成した製品が一度でうまくフィットするとは限らないため、リフィットを繰り返したりしているとさらに数カ月経過するなんてこともざらにあると聞きます。更には、不要になって手放す際にリセールバリューが非常に低く、定価の1/3以下で買い叩かれてしまうことも非常に多いです。これは、特に個人売買では無く店舗で買い取りを依頼する場合には顕著ですので、どちらかというとフリマサイトの方が中古のカスタムIEMは良く見かけます。

購入する側からすると定価の1/3以下という価格非常に魅力的で、自分が常々購入したいと考えていたモデルのカスタム版が売られているのを見ると、他人の耳型に合わせて作成されたものですが、どうにかして使用できないかと色々と考える訳です。

他人のカスタムIEMを使用するためには主に以下の方法が考えられます。

  1. 製造メーカーのリシェルサービスを利用する。
  2. 他社製のカスタムIEMのリシェルも可能なメーカー・個人のリシェルサービスを利用する。
  3. 自分でリシェルや加工を行う。
  4. ユニバーサルタイプ用のイヤーピースを利用する。

[1. 製造メーカーのリシェルサービスを利用する。] については、作成した本人のみや、セカンドオーナーまでなど、何かしらの制限があるところがほとんどで、今現在無制限で自社製品のリシェルサービスを提供しているところを少なくとも私は知りません。

[2. 他社製のカスタムIEMのリシェルも可能なメーカー・個人のリシェルサービスを利用する。] については、やはりメーカー純正のリシェルサービスと比較するとどうしてもビルドクオリティにばらつきが出たり、そもそもリシェル可能なイヤホンの種類が人気の特定機種のみや、特定のドライバ構成のもの(フルBAで何ドライバ以下のみ可、ダイナミックドライバは不可、など)に限られていることが多いと思います。また、デザインについては純正のデザインを維持することは難しく、ドライバ以外の内部配線や基盤などについても交換されてしまい、音が大きく変わってしまう可能性もあります。加えて、最近ではもともとある程度他社製カスタムIEMのリシェルに定評のあったメーカーが軒並みサービス終了しているという逆風が吹いています。

[3. 自分でリシェルや加工を行う。] については、最大の障壁はやはり加工スキルで、数をこなさない限りはスキルを向上させることも難しく、一人前のリシェル、フィッティング加工ができるようになるころには、多数のイヤホンの屍が積みあがっていることになると思います。自分でリシェル、加工ができるようになると、完全自作の可能性も見えてきて、趣味として非常に楽しめるようになると思いますが、いかんせんハードルが非常に高いです。

[4. ユニバーサルタイプ用のイヤーピースを利用する。] についてですが、これは非常に低コストで特別なスキルも必要とせず、比較的多くのカスタムIEMに適用可能なため、上記1, 2, 3が適用できない場合にはもちろんのこと、とりあえず試してみる際にも非常に便利な方法だと思います。カスタムIEMのカナル部分(耳穴に突っ込む部分)の先端は、耳穴の大きさの個人差やカナル部をどの程度の長さで作成するかによってバラつきが出ますが、軸が太いイヤーピースを使用することで、多くのカスタムIEMの先端にユニバーサルタイプのようにイヤーピースを装着することが可能では無いかと思います(耳穴が大きくカナル部が短いなどの条件が重なるとその限りでは無く、先端部分を削って細くするなどの加工が必要となるケースがあります)。

軸が太いイヤーピースとして、比較的安価で入手性も良いものとして、SpinFit CP155があります。これは軸の内径が5.5mmと一体どんなイヤホンに使用することを想定されているのかというほど太く、S, M, Lの3サイズから選択可能で、Amazonや一般的な量販店でも購入可能なため、私もこちらを利用しています。

CP500も内径は5.5mmと同一ですが、イヤホンのステム部の凸凹に引っかけるための構造があり内壁がフラットではないため、CP155の方がよりスムーズに取り付けが可能だと思います。

内径は5.5mmですがシリコン製である程度伸びるため、私の場合ですとカナル部の先端の太さが約7mmのVISION EARS ElysiumのカスタムIEM(こちら、せっかくなので後でレビューしようと思います。)に取り付けることができており、音質についても左右音量バランスの崩れや低域がスカスカになることも無く、問題無く使用できています。多少欠点があるとすれば、もともとある程度の太さがあるカスタムIEMのカナル部に、イヤーピースがはまることでさらに太くなるため、耳穴が多少きつく感じ長時間装着していると痛みなどが発生する可能性がある点が挙げられます。

もちろん他人用に作成されたカスタムIEMを使用するにあたり、問題となるのはカナル部の太さだけでなく耳のくぼみ部分に本体部分がしっかり収まるかという点も重要となってきますが、特にカナル部に関してはしっかりフィットしていないと低域がスカスカになって音質に非常に悪影響を与えてしまうため、そこの問題が多くの場合にクリアできる非常に優れた方法だと思います。

気になっていたモデルが中古で販売しているがカスタムIEM版だ、憧れのハイエンドモデルだけど高額で手が出なかったがカスタムIEM版ならとても安く販売されている、などそういった時に背中を一押ししてくれるのではないでしょうか?

VISION EARS EVE 20

[レビュー] VISION EARS EVE 20

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■製品仕様・特徴など

EVEとはExclusive VISION EARSの略で、特定の年にのみ製造・販売される、ある種の限定モデルのような装いの製品です。20はそのモデルが発売された年を表しており、EVE 20は2020年のExclusive VISION EARS製品ということになります。時は既に2022年ですが、EVE 21は発売されておらず、どうやら毎年必ず発売されるという訳ではないようです。毎年発売されるのであれば、今年のEVEは前年のEVEと比べてうんたらかんたら、ここ数年で最高のEVEでなんとかかんとか、などと、ロマネコンティみたいな批評が楽しめそうだったのですが、少し残念です。EVE 20のチューニングは最初のプロトタイプを作成した際の出来が非常に良く、ほぼそのまま製品化に至ったというストーリーがあるようですが、もしかしたら今後もそのような印象的なチューニングが生み出せない限りはあえてEVEとして発売するというのは無いのかもしれませんね。

デザインについては、フェイスプレートが赤色、本体部分がオリーブ色と、若干リンゴを思わさせるイヤホンとしては珍しい配色ですが、デザインは左右にそれぞれVEロゴとEVEロゴのみとかなりシンプルで、質実剛健さを感じます。VISION EARSの特徴としては、シェルに樹脂が充填されていることが挙げられると思います。樹脂充填筐体で発生しがちな気泡はほとんど無く、透明度も高いです。左右の筐体の形状がほぼ左右対称なのはもちろんのこと、内部のドライバや抵抗などの部品ですらも左右のシェルでほぼ対称に配置されており、本体側の2ピンコネクタ部品の取り付けなどにも曲がりが無く、非常にビルドクオリティの高さを感じます。樹脂筐体の製品はどうしても金属筐体の製品と比べると安っぽい印象になりがちですが、VISION EARSの樹脂筐体製品は他社製の製品と比較するとかなり高級感を感じられます。樹脂充填筐体と中空の筐体のどちらが音響的な特性が良いのかということは議論がありそうですが、見た目の高級感だけでなく、本体の耐久性や、音漏れ、遮音性に対して優位に働くと考えられるため、個人的には非常に好みです。

ドライバ構成はフルBA 6ドライバ 3ウェイ で各帯域に均等に2ドライバずつ割り当てた比較的シンプルな構成です。VISION EARSのフルBAモデルの通常製品としては、現在2ドライバのVE2から8ドライバのVE8までのドライバ数のバリエーションの製品群があり、価格帯的には9万円~30万円のレンジにあります。EVE 20は定価では17万円弱で、これはVE4.2とVE5の間の価格になります。6ドライバのVE6X1, X2は18万円台半ばの定価となっており、ある種の限定モデルにも関わらず単純にドライバ数から考えると多少お得な価格となっています。もちろんドライバ数を増やせば必ず音質が向上するわけではありませんが、単純に部品が増えることによるコスト増加や、多数のドライバを違和感が出ないようにチューニングするためにコストがかかるため、価格については基本ドライバ数が増えれば増えるほど上がってしまうのは自明の理なので、そのような条件の中でEVE 20がこの価格で販売されているのは非常に良心的と言えるかもしれません。

また、VE2からVE8の各モデルでは、ドライバ数 / 価格が、多く / 高いほど上位の製品という訳では無く、明確なチューニングの差によるキャラクタ付けが行われているようです。プロトタイプの音が非常に印象的で、ほぼそのまま製品化されたという本モデル、どのような音を奏でてくれるのか非常に興味深いです。

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 : Effect Audio Leonidas II + Cleopatra 8 wire 2pin - 4.4mm5極バランス

・イヤーピース : SpinFit(純正付属品)

■サマリー

・[モニター] - - 〇 - - [リスニング]

・帯域バランス : 低域 > 中域 >= 高域

・音場 : [広] - - 〇 - - [狭]

・定位 : [正確] - 〇 - - - [曖昧]

・解像度 : [良] - 〇 - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] 〇 - - - - [悪] ※遮音性については個人差大

・装着感 : [良] 〇 - - - - [悪] ※個人差大

■全体的な音質傾向

一言で言うと、密度感、厚みのあるエネルギッシュな鳴り方をしつつも、十分な分離感や音のキレを感じられるVISION EARSらしさが色濃く出ている良機です。

各音のエッジ、粒立ち感については程よく感じられる範囲で若干の強調を感じます。

音の太さについては全体的に太目で厚みを感じる音です。

音の響き、余韻の表現は多少控えめで、どちらかというとクッキリ、ハッキリと鳴らすタイプです。

全体的には音の太さ、厚みによる密度感が目立ち、フルBA型とは思えないほどダイナミックな鳴り方をする印象ですが、BA型らしい音の分離感やキレはしっかりと感じられ、あまり暑苦しくならず、クールさを感じられる出音です。

モニターとリスニングのちょうど中間あたりに位置し、各音が太くハッキリと鳴るため、それらを個別で追いかけるモニター的な使い方もできますし、ダイナミックな鳴り方を活かして純粋に音楽を楽しむこともできると思います。

良くも悪くもどのような音源でも力強く鳴らしがちな傾向があるため、ロック、ポップスを楽しく聞くことには非常に向いていますが、アコースティックな楽曲やクラシックなどで繊細な表現が必要な音源は少し苦手な印象です。

■帯域バランス

低域 > 中域 >= 高域

帯域バランス的には低域が最も目立ち、それに中域、高域が続くピラミッドバランスとなっており、ドッシリと構えた安定感を感じさせます。

低域はBA型とは思えないほどの量感があり、低い所までしっかり出ていますが、輪郭はしっかり残っていてアタック感の強さも感じさせる、総合的に見てかなり主張の鳴り方です。音源によってはボーカルに対して多少重なってくることもあり、低域が苦手な方には受け入れられない可能性があります。

中域についても主張が強い低域に負けないレベルでしっかりと出ており、ボーカル、ギターなどは生き生きと鮮やかに聞こえます。

高域についても必要十分な量はしっかりと出ており、質感としても粒立ちが良い傾向にありますが、伸び自体は控えめで、低域、中域と比べると少し後ろに追いやられ目立たない印象です。

■音場・定位・解像度

音場は広くも無く狭くも無くイヤホンとしては平均的な広さですが、音が太目で厚みがあるため、空間の中が音でみっちり詰まった密度感を強く感じます。

定位感は十分に良いです。音は太目ですが、響き、余韻控えめでクッキリ、ハッキリ鳴らされ、音場も広すぎないため、どこから音が鳴っているかが明瞭に表現されています。ただし、帯域バランスの項でも述べましたが、低域、中域が前面に出てきて、高域は若干後ろの方に追いやられがちなので、そのあたりに違和感を感じる人もいそうです。

解像度についても十分に良く、各音はしっかりと分離されて鳴り、BA型らしくディテールの表現も良好ですが、音が太目のため一般的な高解像度の音の鳴り方として想像される出音とは異なる印象です。

■音漏れ・遮音性

イヤホン本体にベントや継ぎ目が無く、耳にもしっかり収まり、イヤーピースだけでなく樹脂充填された筐体で耳穴周辺が塞がれるため、ユニバーサルタイプの密閉型のイヤホンとしては最上級の音漏れ耐性と遮音性を持っていると感じます。

騒音化での移動(電車など)を伴うポータブル用途でも、ポータブルでの利用で聴き取りづらくなる低域が盛られているバランスと、非常に高い音漏れ耐性、遮音性により、非常に快適に利用できます。

■装着感

筐体自体は薄目で面積が広いという独特の形状をしており、耳が小さい方は耳のくぼみ部分にイヤホン本体がハマりきらず、装着感が非常に悪くなってしまう可能性があります。私は比較的大きめの耳らしく、大きいと言われている筐体のイヤホンについても問題無く耳の中に収まることがほとんどで、EVE20に関しても特にキツさなどは感じずピッタリとくぼみの中に収まります。

重量は中空の樹脂筐体のものと比較すると樹脂充填されている分の重量増を感じますが、その重さが負担になるレベルでは無く、耳に当たる面も滑らかな曲線となっているため、長時間の装着でも痛みや違和感などは感じにくいです。

ステム部も平均よりは多少太目ですが、使用可能なイヤーピースが少なく困るということは無いと思います。ただし、標準で付属されるSpinFitから他社製のイヤーピースに変更すると、絶妙なバランスで成り立っていたEVE 20の出音が崩れ、低域過剰で高域が曇ってしまったり、密度感が高くエネルギッシュな鳴りが失われてしまいがちな印象を受けました。逆に言うと、SpinFitを使用した際の出音が苦手な場合でもイヤーピースの調整で好みの傾向に近づけられる可能性も高く、特に口径が広いイヤーピースを使用すると、高域がよりダイレクトに伝わり、低域の主張の強さも多少控えめになってより自然な鳴り方に近づくので、元の鳴り方が気に入らない場合などに試す価値はあると思います。

■その他、備考

特定の年のみ製造・販売するという、個数や国・地域限定とはまた異なる限定製品になりますが、しっかりとVISION EARSらしさを感じられるモデルになっていると思います。私はEVE 20を聴いたことがきっかけとなって、VISION EARSの音作りの傾向のファンとなり、今では旧フラグシップモデルであるErlkönigを渇望して止まない体にされてしまいました。VISION RAESの音作りはいわゆる優等生的な音作りとは少し距離を感じるところがあり、万人受けするわけではないと思いますが、ハマる人にはかなり中毒性が高いと思います(このあたり、同じドイツのメーカーのULTRASONEに似た印象を感じます)。特に、ロック、メタル、電子音楽などをメインで聞く方には一度聞いてみて欲しいメーカーになります。

機材のお手入れについて

[Tips] 機材のお手入れについて

ポータブルオーディオ機材はよほど慎重に扱わない限りは傷や汚れはつきものです。この記事では私が普段機材のお手入れの際に愛用している製品をご紹介します。

■日常的な汚れのお掃除

機材が汚れてしまったなと感じた時には、基本的には柔らかいクロス(100均のメガネクロスで特に不便を感じていません)で優しく乾拭きををしています。某大手専門店では試聴スペースにクリーニング用としてウェットティッシュが用意されていますが(これ、中古商品の状態が悪化しそうでかなり気になります。。。)、アルコールはイヤホン本体の樹脂を侵したり、ヘッドホンのイヤパッド、ヘッドバンドの皮革を痛める原因になるので、よほどの汚れではない限りは使用を控えるのが賢明かと思います。もしアルコール含有のウェットティッシュやクリーニング剤を使う場合でも、濃度の低いものを少量、汚れの酷い箇所に使用範囲を絞って使用するのが良いかと思います。ウェットティッシュには除菌、殺菌、汚れ落としの性能を向上させるために、アルコール以外にもさまざまな成分が含まれていることがありますが、それらが悪影響を与えないとも限らないため、できる限り精製水、アルコール以外の成分が含まれていないものがおススメです。

■傷の除去(ポリッシング)&コーティング

傷の除去(ポリッシング)とその後のコーティングには主に以下の製品群を使っています。

主にプラモデルなどの模型用のコンパウンドとコーティング剤で、オーディオ製品専用品ではありませんが、私が主に樹脂筐体のイヤホンに使用している範囲では特に問題などは起こっていません。

コンパウンドは傷の深さに応じて使い分ける必要がありますが、私はできる限りイヤホン本体のダメージ(研磨量)を少なくするために、最も目の細かいものから順番に試していくようにしています。

上記製品群ですと、

  1. セガワ セラミックコンパウンド
  2. タミヤ コンパウンド(仕上げ目)
  3. タミヤ コンパウンド(細目)
  4. タミヤ コンパウンド(粗目)

の順で目が粗くなっていきます。

わずかなスレ程度でしたら、ハセガワ セラミックコンパウンドタミヤ コンパウンド(仕上げ目)で研磨した時点で消えることが多いです。

スレよりも多少目立つ線キズでも、タミヤ コンパウンド(細目)までかけた時点で消えることがほとんどです。

タミヤ コンパウンド(粗目)の粗さですと、筐体表面の光沢などが失われるレベルでしっかり研磨されるため、できる限り範囲を絞って研磨するようにしないと後でまたツヤツヤの表面に戻すのに苦労することになります。筐体の樹脂自体に着色されているタイプではなく、塗装で着色されている場合などにはその塗装自体が剥げてしまう危険性もあるため、基本的には粗目を使うのは最終手段と思っておいた方が良いです。

スレや傷が消えるまで順番に粗い目のコンパウンドに移行していき、消えた時点で今度は順番に細かい目のコンパウンドに変更しつつ表面を整えていきましょう。

コンパウンドを細かい目に変更するタイミングで、粗い目のコンパウンドティッシュなどでしっかりふき取ることも重要です。粗い目のコンパウンドが残っている状態ですと、細かい目のコンパウンドで研磨しているはずなのに、微量に残った粗い目のコンパウンド粒子のせいで研磨跡があまり綺麗になっていかないなどの問題が発生する可能性があります。

上記のように丁寧にポリッシングする場合、作業箇所の量によっては1時間以上かかってしまうこともありますが、横着してポリッシングに失敗してしまうと綺麗になるどころか状態がより悪化してしまうため、しっかり時間が取れる時に取り組むのが良いと思います。

コンパウンドがノズル、2pin / MMCX コネクタ部分、ベントなどに入ってしまわないように作業することも重要です。マスキングテープなどで上記の箇所を事前にふさいでおくと安心ですが、私は指などでカバーしながら慎重に研磨することが多いです。

スレや傷を消し、最終的にハセガワ セラミックコンパウンドで表面を整えたら最後にハセガワ コーティングポリマーで表面をコーティングします。ハセガワ スーパーポリッシングクロスにコーティングポリマーを少量垂らし、良く馴染ませてからイヤホン本体をふきあげるようにしています。コーティングポリマーの量が多い場合、なかなか乾燥せず定着が遅れたり、ムラが出来たりする場合があるので、時間も手間もかかってしまいますが、少量でのコーティングを何度か繰り返すようにした方が綺麗に仕上がる傾向が有ると思います。コーティングの乾燥、定着にかかる時間ですが、少なくとも半日程度は触らずに放置するのが良いと思います。また、コーティング後1~2週間はアルコールでのお掃除も控えた方が良いと思います。

■金属筐体イヤホンのポリッシング

基本的にはあまりおススメはできません。一度細かいスレ、傷が多数あるSONY IER-Z1Rを上記と同じ手順でポリッシングしてみた際には、確かにスレ、傷は目立ちづらくなり、鏡面加工の光沢感もある程度戻りましたが、樹脂筐体と異なりスレ、傷が完全に無くなることは無かったです。また、コーティングポリマーの定着も樹脂筐体と比較して悪いのではないかと予想されます。金属筐体のイヤホンに傷がついてしまった場合には、それも味として受け入れていく方が精神衛生上良さそうです。

もしくはまだ試したことはないのですが、専用の金属磨き用のクロスなどを使用するともう少し改善が見られるかもしれません。

■終わりに

機材のお手入れには時間と手間がかかりますが、自分が愛用しているものが綺麗になっていくのを見るのは非常に心地良いです。一方で、お手入れのし過ぎも悪影響となり得るので注意する必要があります。

また、ポリッシングとコーティングを自分でできるようになると、傷有の中古製品を購入した場合でも傷の程度次第では新品同様の綺麗な状態に戻すこともできるので、中古購入する方には特におススメです。

専門店のポリッシング&コーティングサービスもありますが、両方実施すると1万円程度かかり、仕上がりの具合についても自分でやる場合とそこまで差を感じないため、私はそういったサービスは利用しなくなりました。

何よりも、自分の大切な愛用品を他人に預けるのはどういう扱い方をされるのかわからず多少の抵抗感がありますし、自分で丁寧にお手入れすることでより愛着も湧くので、私にとってはメリットだらけでした。

ぜひ皆さんも、愛機の傷や汚れが気になってきたら、一度は自分で上記のお手入れをしてみてください。できれば最初は失敗してもダメージの少ない低価格機から試せるとなお良いと思います。

試聴記録 2022/01/06

[感想] 試聴記録 2022/01/06

1月に入ってから試聴した以下の機種たち。

あまり聞き込めていないので、レビューとまではいきませんが、備忘録的に簡単に感想や思うところを書いておきます。

■試聴した機種一覧

□イヤホン
  • VISION EARS Erlkönig
  • VISION EARS PHÖNIX
  • DITA Dream XLS
  • qdc Dmagic 3D
□ヘッドホン

 ■VISION EARS Erlkönig

筐体がすごくずっしりとしてて高級感がすごい。VISION EARSの初めてのユニバーサルモデルにも関わらず、重さが気にならないレベルで装着感は良かったです。

VISION EARSのイヤホンの特徴として、所有しているEVE 20や店頭でいくつかのフルBAモデルを試聴した感じだと、密度が高くエネルギッシュな鳴り方をしつつも、各音の分離感やキレの良さが損なわれていないことが特徴的だと思っていましたが、Erlkönigについても例に漏れずそのような傾向を感じました。EVE 20との比較するとドライバ数は2倍以上になっている訳ですが、増えたドライバ数による影響は主に各音の響き、余韻、広がりなどの空間表現の向上や、EVE 20では多少足りなかった高域の伸びに表れている気がします。このあたりはJH AudioのLaylaとAngieの関係にも似ている気がします。

サウンド切り替え用の回転式スイッチで4種類のチューニングに変更可能ですが、どのチューニングを選択しても決して破綻することなく魅力的な音色を奏でているのはさすがに高いだけのことはあるなと思いました。一番人気はスイッチ2(Moderate Bass)のようですが、中域を邪魔しない範囲でのモリモリ低音好きの私にはスイッチ1(Powerful Bass)も非常に魅力的に聞こえました。スイッチ3(Super High)、スイッチ4(Forward Mids)についてもそれぞれ違った魅力を感じましたが、自分の中にあるVISION EARSらしさにより合致するスイッチ1, 2がやはり自分の中では印象に残っています。

中古でも相場は40万円以上と非常に高額ですが、いつかは手に入れて色々な音源で聴きこんでみたいです。

価格はもちろんのこと、状態の良い中古がほとんど出回らないのが最大のネックですが。。。今更ながら、終売直前に価格が落ちたタイミングで新品購入しておけば良かったと後悔するばかりです。。。

 ■VISION EARS PHÖNIX

Erlkönigのスイッチ2のチューニングをもとにアップデートを加えたものとのことで、一聴してどの帯域も高品位で空間表現も良く、非常に丁寧かつ緻密にチューニングされたのだろうなという印象を覚えた一方で、VISION EARS特有の良い意味での荒々しさは薄れ、どこか優等生的になりすぎてしまっているのでは無いかと思いました。そういった点から、VISION EARSらしさを色濃く残していたErlkönigの方が好みです。デザインも価格からするともう少し高級感が欲しいような気がします。

 ■DITA Dream XLS

シングルダイナミックドライバーの名機として名高いですが、試聴レベルではあまりその魅力を感じられませんでした。。。みんなが口をそろえて言う広大な音場もそこまで感じられず、平均よりは良いかな?くらいの印象で、あまりどのような音質だったか記憶に残っていません。。。機会があればもう少し聞きこんでみたいところです。

 ■qdc Dmagic 3D

ダイナミックドライバ3発と他に無い変わった構成のため、一度は聞いてみたかった機種でした。低域、中域の質感はなかなか良い印象だったのですが、高域がそこまで伸びている訳では無いのにやけにシャリシャリと楽曲から浮いているように聞こえる苦手なタイプでした。。。良く言えば、高域が刺さらない範囲で明瞭に聞こえるので高域好きの方には好ましい傾向なのかもしれません。

 ■ULTRASONE Jubilee 25 Edition

ULTRASONE製品の中でもずば抜けて高額なモデルのため、どのような音がするのか非常に期待していたのですが、高域はシャリシャリ、低域はスカスカですぐに試聴をやめてしまいました。ケーブルに特殊な加工がされていたのでその影響もあるかもしれませんし、駆動力の高いアンプなどを用意するとまた違うのかもしれませんが、少なくとも現状の環境で鳴らすのであれば10分の1の値段でもいらないなと思いました。

 ■ULTRASONE Edition5

Jubilee 25 Editionの直後に聞いたのでかなりまともなバランスに聞こえましたが、それでもやはり私には高域が過剰で低域が不足がちに感じました。ただ、しばらく聞いていれば慣れるレベルの範囲には収まっている印象です。音場、定位、空間表現は良好で、大きさの割に軽く装着感も良いので、安く買えるなら持っておいても良いかとは思わされました。ただ、ヘッドホンでケーブルとの接続がMMCXなのは耐久性が非常に不安です。。。

 ■ULTRASONE Edition8 Julia

全体的には派手でちょっと雑さを感じる鳴り方と感じました。低域はある程度深い所まで出ていますが、ヘッドホンならもっと量がモリモリ出て包み込まれる感覚が欲しいです。高域は鋭く硬質な鳴りで刺さるギリギリの鳴り方で、もう少し柔らかさが欲しいところです。中域はあまり印象に残りませんでしたが悪くはなかったと思います。ポータブルで雑に使いまわすには十分な音質だと思いましたが、それならイヤホンでいいなぁという感じです。

 ■ULTRASONE Edition 15 Veritas

ULTRASONEのEditionシリーズとしては最新のモデルで、価格に見合うかは微妙な所ですが、純粋な音質だけで考えるとなかなかに良かったです。低域の量感はそこまで増えた訳では無いのですが、高域のキツさについてはだいぶ抑えられて繊細な質感になっており、音量をある程度上げると非常に気持ちよく鳴ってくれました。音場、定位、空間表現はEdition5と同様に良好で、奥行、立体感も感じられ、音楽に没入することができました。

私の中のULTRASONEの音のイメージは、Edition9、Signature Pro / DJ、Tribute7あたりで止まっており、そこからするとEditionシリーズの中では最新のモデルであるEdition 15 Veritasは、全体的にマイルドで、各音のディテールを描写するというよりも空間表現を重視した音作りに変化してきているのかなと感じました。今思うと、一時的に所有していましたが初期不良が連続して最終的に返品・返金となったSAPHIREも、同じような傾向にあったことを思い出しました。一昔前のULTRASONE製品は全体的にロック、ポップスを派手な音で気持ちよく聴ける音質傾向でしたが、最近のULTRASONE製品はクラシックやアコースティックな楽曲をゆったりと落ち着いて聴くための音質傾向にシフトすることを目指しているのでしょうか。そのような傾向も嫌いではないですが、昔のような音質傾向のモデルのバージョンアップ版も出して欲しいところです。もしかしたらSignatureシリーズの製品群は昔の傾向を維持しているのかもしれませんが、いかんせんケーブルが片出しでバランス接続するためには改造が必要になりそうなので試聴すらしたことがありません。基本的にはプロユース向けなので取り回しの良い片出しになるのはしょうがないのかもしれませんが、個人的にはとても残念です。

final 糸竹管弦

[レビュー] final 糸竹管弦

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■製品仕様・特徴など

シングルダイナミックドライバ1発で定価30万円弱、世界500台限定、シンガポールのオーディオブランドDITAとコラボ、とかなり攻めた内容のイヤホンです。

名機と名高い final A8000 と同様に、ダイナミックドライバはピュアベリリウム振動版が使用されており、チューニング、外装、付属ケーブルを変更したアレンジモデルかと思いきや、筐体の大きさまでも微妙に違います(糸竹管弦の方が厚み方向に小さい)。A8000のハウジング内部は複雑な構造のエアーチャンバーが存在していることが公開されており、糸竹管弦の開発においてそのあたりにも調整が入っているのかもしれません。

ハウジング外装の仕様も豪華で、沈金という漆と金を用いた装飾がなされています。ステンレス鏡面加工のA8000よりは傷はつきにくそうですが、どちらにせよ使用時に気を使うことは間違いないです。

また、付属純正ケーブルはDITAのオスロケーブルを糸竹管弦用に特別チューニングしたもの(芯線をツイストする構造から編む構造に変更、被覆構造も変更、オリジナルデザインを適用)ですが、こいつがかなりのクセモノです。ケーブル自体が2重被覆されており固めなのは丈夫そうで良いのですが、それに加えて癖が非常につきやすく、使用時にも収納時についた癖で丸まろうとするため取り回しが非常に悪いです。全然真っすぐになってくれません。プラグ側を上にしてしばらく吊るしておくと一時的に真っすぐになるのですが、何かの機会に丸めて収納するとまたくるくるくるくるくるくると元通りになります。。。なので、通常のオスロケーブルにリケーブルして使用することが多いのはここだけの秘密。

A8000ではfinalが「トランスペアレント」な音を目指して開発を行い、見事に意図通りの音を作り上げましたが、finalと同じくダイナミックドライバ1発のハイエンド機を複数有するDITAとのコラボによって、どのような音が作り上げられているか非常に気になるところです。

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 : オスロケーブル Gen.SK (純正付属ケーブル) MMCX - 4.4mm5極バランス

・イヤーピース : final type E

■サマリー

・[モニター] - - 〇 - - [リスニング]

・帯域バランス : 高域 = 中域 = 低域

・音場 : [広] - - 〇 - - [狭]

・定位 : [正確] 〇 - - - - [曖昧]

・解像度 : [良] - 〇 - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] - - - 〇 - [悪]

・装着感 : [良] - - 〇 - - [悪]

■全体的な音質傾向

一言で言うと、全ての音を真面目にレスポンス良くクリアに表現しつつも、モニター的になりすぎず各音の艶などもしっかり感じられ、音楽を音楽として楽しむことができる良機です。

各音のエッジ、粒立ち感については多少強めで、各音の輪郭やアタックを感じやすい傾向にあります。

音の太さについては自然であまり色付けを感じません。

音の響き、余韻の表現は必要十分で、各音のクリアさを失わない範囲で艶や空間的な鳴りはしっかりと感じられます。

全体的にはダイナミックドライバとしては多少固めの音の傾向がありますが、それがクリアさ、レスポンスの良さにそのまま繋がっている印象です。

振動版を金属などでコーティングした機体においては固めでソリッドな出音を実現できる一方で、耳障りな響きが付加されてしまうことがありますが、本機においてはそのような問題は無く、自然な鳴り方を維持しています。

このあたりがピュアベリリウム振動版の恩恵なのかもしれません。

モニターとリスニングのちょうど中間あたりに位置するように感じられ、音楽を分析的に聴くことも、何も考えずに楽しむことも、どちらも許容してくれます。ただし、純粋なリスニング用イヤホンとして使用する場合には、少し聞き疲れしやすい出音の傾向が気になる可能性があります。

■帯域バランス

高域 = 中域 = 低域

帯域バランスは自分にとってはフラットに聞こえ、逆ピラミッドバランスに感じられるA8000の高域を抑え、低域を盛ったようなバランスです。

中域はボーカル、楽器ともに自然に鳴り、艶もある程度感じられますが、必要以上に脚色していない印象です。

高域についてはA8000よりは抑えめになりましたが、それでも量としてはしっかりと出ており、質感としてもクッキリ、ハッキリした傾向があるためそれなりに目立ちます。

低域はダイナミックドライバらしくしっかりローエンドまで出ており、量も必要十分で、広がりすぎず制動されて聞き取りやすい質感です。

総じて、全帯域に渡ってクリアでレスポンスの良い鳴り方に感じます。

■音場・定位・解像度

音場は広くも無く狭くも無くイヤホンとしては平均的な広さですが、空間性を感じるには十分です。

定位感は非常に良いです。このあたりがダイナミックドライバ1発構成の強みだと思うのですが、空間の中で自然に鳴っている感覚を残しつつ、音が鳴っている位置がブレたり滲んだりせずに明瞭に表現されている印象です。

解像度についても十分良いです。ダイナミックドライバ1発構成の場合は、自然な音場や定位感を得られる代償に、各音の分離感や細かい描写が犠牲になる傾向にありますが、本機ではBAドライバに匹敵するレベルの解像度を実現できていると思います。

■音漏れ・遮音性

イヤホン本体にベントがありそこからの音漏れもあるのでしょうが、筐体自体の響きも豊かなようで、音量を上げるとメロディーラインがはっきりとわかるレベルで音漏れします。

イヤーピースとその他数点の接触で支えて装着する感じで耳への密着度が低く、遮音性についてはあまり高くはありません。

密閉型のイヤホンとしては、音漏れ耐性と遮音性は平均よりも低い印象です。

騒音化での移動(電車など)を伴うポータブル用途の場合、周囲に人がいるような環境だと外音を遮音できるほどに音量を上げることは難しいと思います。

■装着感

金属製で重量はそれなりにありますが、筐体自体が小さくその点が気になることは少ないと思います。

人によって問題になってきそうなのは独特の装着感で、音漏れ・遮音性の項でも述べたように、イヤーピースとその他数点で筐体を支え、耳には密着しないタイプなので、私が使用する際には装着位置が安定せず、気持ちの良い鳴り方をする位置を探ることになりがちです。

一度スイートスポットを見つけてしまえば使用時にズレることはあまりありません。

■その他、備考

finalはPiano Forteシリーズを出したあたりから認知はしていたのですが、なんかキワモノが多いなぁという印象で一度も聞いたことが無かったのですが、ふと店頭でA8000の試聴機を聴いて、ダイナミックドライバ1発とは思えないクリアでレスポンスの良い音色に衝撃を受けました。ただ、試聴時の印象としてA8000は高域が目立ち低域が控えめな逆ピラミッドバランスに感じ、自分の好みの音質傾向とは少し外れていたため即購入には至りませんでした。

しかし、finalは非常に真摯に音作りを行っているメーカーだと認識を改めさせられ、新たにリリースされる新製品についても気にするようになりました。

そこに登場したのが糸竹管弦で、店頭で試聴した際にA8000にあった高域のキツさが抑えられ、低域も量感が増し、その上でA8000の最大の特徴である全帯域でのクリアでレスポンスの良い鳴り方がある程度維持されていると感じられたため、ダイナミックドライバ1発のハイエンド機は当時所有していなかったというのもあり、衝動買いしてしまいました。

他のイヤホンには無い唯一無二の個性、finalが言うところの「トランスペアレント」な鳴り方という観点においては、A8000と比較すると糸竹管弦においてはその個性が薄められているため、A8000の方が明確な使い分けがしやすく好ましく思う人もいるかとは思いますが、多くの人に受け入れられやすいのは糸竹管弦の音なのではないかと思います。