ヘッドフォンチルドレン -THE BACK HORN- レビュー
苦しい時のバイブル
ヘッドフォンチルドレンはTHE BACK HORNの2008年のアルバムです。
- 扉
- 運命複雑骨折
- コバルトブルー
- 墓石フィーバー
- 夢の花
- 旅人
- パッパラ
- 上海狂騒曲
- ヘッドフォンチルドレン
- キズナソング
- 奇跡
私はこのアルバムを聴くと、大学受験の際に当時自分にとって未知だった土地、東京、神奈川に音楽プレーヤーをお供に通った日々とともに、その日の受験の出来がどうであれ、イヤホンから流れてくる彼らの音楽にまた明日からも頑張ろう、と勇気づけられたことを思い出します。
このアルバムには、苦しくつらい現実を直視する、そしてその中から一筋の希望を見出す、という一貫したテーマがあるように思います。それが受験というなかなかに厳しい人生のイベントを乗り越えるためのBGMとしてマッチしていました。
例えば、運命複雑骨折、墓石フィーバー、パッパラ、上海狂騒曲ではどうしようもない腐った日常やその中でのやるせなさを歌っていますが、その一方で旅人、夢の花、キズナソング、奇跡などでは一転して高らかに希望や幸せについて歌っています。
まさに、人生山あり谷ありを一枚のアルバムの中で表現しているようです。
THE BACK HORNの変化
THE BACK HORNはこのアルバムを出す前にメジャーアルバムとしては、人間プログラム、心臓オーケストラ、イキルサイノウをリリースしていますが、その中で彼らは明確に作風を変化させてきました。
それは、「くだらない世界」、「間違った世界」に対する「憤り」、「怒り」を主に歌うスタイルから、「日常に根差した希望や幸せ」を歌うことに躊躇がなくなっていることが最も大きいように感じます。
それと同時に、ナイーブで繊細な感情を激情に訴えて歌うだけでなく、誰しもが心の中に持ちえる希望、幸せを訴える力強さがバンドとして備わってきたのだ、という成長を感じさせます。
最後に
この後の彼らがリリースすることになる作品群を考えると、日常の中の希望、幸せを多く歌い始めたという点で転換期に位置する作品であり、彼らはここからさらにもう一歩進んで、日常の悲喜こもごもをよりニュートラルに歌う「太陽の中の生活」というアルバムをリリースします。太陽の中の生活は過去作とは大きく異なる作風からファンの間でも賛否を巻き起こしましたが、本作では過去作から脈々と引き継がれてきた激情に訴える部分と、希望を穏やかに、時に力強く訴える部分が同居しており、非常にメリハリのあるアルバムに仕上がっています。
そのため、激情型ロックが好きな方からポップスの文脈に近いロックが好きな方まで幅広いリスナーに受け入れられる作品になっており、THE BACK HORN入門盤としてもおすすめの一枚となっております。