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FAudio Project Y

[レビュー] FAudio Project Y

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■製品仕様・特徴など

「Project Y」はFAudio創立5周年を記念したフラグシップモデルで、日本国内だと120台の限定生産品になります。ドライバ構成としては、Low ×1 (Dynamic)、Full Range (BA) x2、Mid/High (BA) x2、High (EST) x2 という 7ドライバ 4ウェイ 構成で、ここ数年でにわかに流行りだしたEST(静電ドライバ)を使用したトライブリッド構成となっており、再生周波数帯域も 20 Hz - 80,000 Hz とかなりのワイドレンジとなっています。

Project Yは複数のFAudio製品を開発する中で培われてきた技術の集大成のようになっており、複数のBAドライバを用いたドライバ構成を実現する際に、フルレンジのBAドライバを使用するT.C.T(True Crossover Technology)であったり、主にDynamicドライバ向けに筐体内の空気圧やエアーフローを制御するためのT.B.A.C(Triple Built-in Acoustic Chamber)というアコースティックチャンバー技術が採用されています。

また外装や付属品も豪華です。筐体は超軽量アルミニウムの削り出しで形成され、フェイスプレート部にはフォージドカーボンという素材が採用されています。Project Y用に高品質の素材を使用して専用設計された銀メッキ銅ケーブルも付属しますが、見た目が美しいだけでなく取り回しにも優れ、音質についても専用設計ということで基本的には純正ケーブルのまま使用することを前提にかなり緻密なチューニングがされている印象です。さらに、イヤーピースについてはもともと単品でも販売されていたFA Vocal、FA Instrumentの2種のイヤーピースのバージョンアップ版である、FA Vocal+、FA Instrument+が付属します。

定価は30万円弱とかなり高額ですが、開発にかかった年数と上記の豪華な仕様を考えると致し方無いと思わされる部分もあります。しかし重要なのは実際の出音です。期待値が高まる中それに応える製品となっているのでしょうか。

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 : 純正付属銀メッキ銅ケーブル 2pin - 4.4mm5極バランス(プラグ交換済み)

・イヤーピース : FA Instrument+(純正付属イヤーピース)

■サマリー

・[モニター] - 〇 - - - [リスニング]

・帯域バランス : 高域 = 低域 > 中域

・音場 : [広] - 〇 - - - [狭]

・定位 : [正確] 〇 - - - - [曖昧]

・解像度 : [良] 〇 - - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] - - 〇 - - [悪]

・装着感 : [良] - 〇 - - - [悪]

■全体的な音質傾向

一言で言うと、正確な定位と高解像度が特徴的なモニター寄りの万能機。

各音のエッジ、粒立ち感については強めで、一音一音が明瞭に描写されます。

音の太さについては、全体的に多少線が細めな印象を受けますが、繊細になりすぎてはいません。

音の響き、余韻の表現は必要十分で、音源の空気感をそのまま再生している印象です。

あまり脚色をせず、正確な定位と高い解像度を武器に原音に忠実に鳴らしきるモニター傾向寄りの出音で、味付けされていない音源そのままの味を楽しめる一方で、どうしても分析的な聴き方をしてしまいがちな音質傾向にあり、音楽を音楽として楽しむには他のリスニング傾向のイヤホンの方が向いていると感じることもあります。

■帯域バランス

高域 = 低域 > 中域

帯域バランス的にはほぼフラットに感じますが、高域と低域が若干目立つ弱ドンシャリ傾向にあると思います。

全体域に渡って、多少線が細めで、余計な味付けはしないドライな鳴り方をする傾向にあります。

中域は最も控えめな帯域ですが、それでもボーカル、楽器ともに明瞭に聞こえてきます。ただし、艶や生々しさといった点については控えめです。

高域は高いところまで良く伸び、抜けも良いです。それでいて、金属的な硬質さは控えめでシルキーな質感のため、刺さりなどの不快感を感じることの無い丁寧な鳴り方です。

低域は中域にかぶさることはほぼ無く、良く分離された位置で鳴ります。ローエンドまでしっかりと出ていて、量的にも十分で、比較的輪郭がはっきりした弾力を感じる鳴り方です。

■音場・定位・解像度

音場は良く伸びる高域と良く沈む低域に押し広げられている感じで、平均よりも広めに感じます。センターに位置するボーカルと上下左右から出る楽器音の間にある程度距離を感じるため、それらの音が混ざり合うことはほとんどありません。

定位感は非常に良いです。余韻、響きを必要以上に強調せず、多少線が細めな傾向とあいまって、比較的広めの音場の中で滲みなく浮き上がるような鳴り方です。

解像度についても非常に優れており、各音は広めの音場の中で定位感良く分離され、ディテールについても丁寧に描写されます。

この定位感、解像度は、全ての音が明瞭に聞こえすぎて不自然と思う人もいる可能性があります。

また、各音は立体的に奥行も伴って配置されますが、空間の中で自然に鳴っている感じや音に包まれる感覚は薄く、臨場感は感じづらいかもしれません。

■音漏れ・遮音性

イヤホン本体にベントがあり、完全に密閉されているものと比較すると多少音漏れは大き目です。一方で、個人差はあると思いますが、適切な大きさのイヤーピースを使った際の耳への密着度はかなり良く、遮音性は優れているため、騒音化においても音量の上げ幅が少なくて済む傾向にあります。

両者の差し引きで、密閉型のイヤホンとしては平均程度の音漏れ耐性と遮音性を持っていると感じます。

騒音化での移動(電車など)を伴うポータブル用途の場合、音漏れには多少注意が必要ですが、自分が音楽を聴く分には十分快適に利用可能なレベルです。

■装着感

筐体は厚み方向が大き目で、装着時に耳から多少飛び出します。

重量は金属製にも関わらず軽量で、耳に当たる面はカスタムIEMのような形状になっており耳へしっかり密着します。装着感自体は全体的にかなり良好で、イヤーピース、耳掛けケーブルだけでなく、筐体そのものが耳にしっかりはまり込み重さを支えるため、長時間の装着でも痛みや違和感などは感じにくいです。

ステム部が太めですが、しっかりと段がついているため、大抵のシリコン系のイヤーピースであれば使用可能です。ただし、純正付属イヤーピースであるFA Instrument+に関しては、ステム部分が細めで固くあまり伸びないため、最初のうちは取り付け、取り外しにかなり苦労しました。使用しているうちに段々伸びて柔らかくなってはいきます。

■その他、備考

自分が購入した最初のFAudio製品ですが、音作りに関しては非常にクオリティの高さを感じ、この製品でFAudioのファンとなり、FAudioのダイナミックドライバの機種を集めるきっかけとなりました。

一方で、この製品は他のFAudio製品と比較しても圧倒的に不良が多いことで悪名高く、自分も2回ほど初期不良交換を繰り返しました。

1回は本体側の不良で、ハンドメイドではなくCNC切削により作製されているにも関わらず、左右で筐体の形状が異なるというものでした。

残りの1回はケーブル側の不良で、片側の2ピンコネクタ部分が2か所で曲がって取り付けられている珍しい不良でした。また、交換したケーブルについても、2ピンコネクタは正常だったものの、プラグ側の金属部品に大き目の傷が有り、プラグ自体にも曲がりがありました。この不良についても問い合わせましたが、交換用に用意していたケーブルについても大きめの傷やプラグの曲がりがある似たり寄ったりな状態とのことで、結局そのまま使用することになりました。プラグに曲がりがあるせいか、使用時に音が途切れることもあったため、4.4mm 5極バランスプラグに変更しています。

あとは、他社製ケーブルだと基本問題は無いのですが、純正ケーブルだと2ピン接続が緩いという地味に嫌な問題も発生しています。※本体側のコネクタも多少緩んでいるのかもしれませんが、それ以上にケーブル側の2ピンが細い気がします。

上記のように、音は良いものの製造起因の不良が非常に多く(自分が挙げた以外にも多様な不良が出ているようです)、納得の行く品質の個体を手に入れるためには手間がかかるため、これから購入を検討されている方については、新品を購入するよりも、中古で納得のいく状態のものを購入する方が良いかもしれません。

なお、2021年のMixWaveオンラインストアブラックフライデーセールにおいて、20万弱と約30%もの値引きがされていて、その少し前に定価で購入した私は非常に悔しい思いをしました。。。

なんにせよ、限定品で数もそこまで多くないため、試聴して良いと思った方は中古で良いので確保しておくことをおススメします。

もしかしたら、在庫一括処分セールとかあるかもしれませんが、その時は気を強く持ちましょう。。。