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EMPIRE EARS ODIN (Universal Fit)

[レビュー] EMPIRE EARS ODIN (Universal Fit)

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■製品仕様・特徴など

日本では2020年9月に発売開始した、EMPIRE EARSのフラッグシップモデルで、定価40万円弱の弩級イヤホンです。

値段だけでなく、そのドライバ構成も多ドライバを組み合わせた音作りを得意とするEMPIRE EARSのフラッグシップモデルにふさわしく、1 Sub-bass、1bass、2 Low-mid、2 Mid、1 Mid-High、2 High、2 Ultra-High の 11ドライバ 7ウェイ というもはや良くわからない複雑な帯域分割を、ダイナミックドライバ、バランスドアーマチュアドライバ、静電ドライバの3種類のトライブリッド構成で実現しています。

ドライバ数を増やしたからと言って良い音になるとは限らず、そもそもこの複雑な構成でまともな音を鳴らすこと自体が非常に難しそうな印象を受けます。

付属する純正ケーブルはPW Audioに特注したODIN専用のケーブルで、STORMBREAKERという非常に厨二臭い名前がついています。プラグは2.5mm4極で、純正ケーブルでバランス接続ができるのは大変好ましいですが、可能であれば4.4mm5極プラグを選択できるようにして欲しかったというのが本音です。

デザイン的な面で言うと、ODIN専用Bifrostフェースプレートが目を惹きます。虹を模して多色で構成されたデザインは好き嫌いは分かれると思いますが、私は非常に美しいと思っています。ですが、いかんせんR側のEMPIRE EARSの翼ロゴがダサいのと(両側ともValknutデザインにして欲しい。。。)、フェースプレートガチャを外した場合の精神的なダメージは計り知れないほど大きそうです。

こまごまと仕様の段階で文句をつけてしまいましたが、以下音質レビューになります。

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 : STORMBREAKER (純正付属ケーブル) 2pin - 4.4mm5極バランス (変換アダプタ使用)

・イヤーピース : final type E

■サマリー

・[モニター] - - - 〇 - [リスニング]

・帯域バランス : 中域 >= 低域 >= 高域

・音場 : [広] - 〇 - - - [狭]

・定位 : [正確] - 〇 - - - [曖昧]

・解像度 : [良] 〇 - - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] - - 〇 - - [悪]

・装着感 : [良] 〇 - - - - [悪]

■全体的な音質傾向

一言で言うと、基本性能が高くバランスよくまとめられた優等生的な面を持ちながら、音楽を楽しく、気持ちよく聴かせることを重視してチューニングされた、Empire Earsの中でも屈指の名機です。

各音のエッジ、粒立ち感については十分感じられるものの、決して硬質な音にはなっておらず、むしろ多少の柔らかさ、しなやかさを感じます。

音の太さについては多少太目ですが、後述する抜けが良く外側に広がっていくような音場感の影響からか、過剰な濃密さは感じず気持ちよく聴ける範囲に収まっています。

音の響き、余韻の表現は豊かで、ボーカルや各楽器が生々しく鮮やかな鳴り方をします。

全体的にはリスニング傾向のある出音で、音源をあまり選ばず楽しく、気持ちよく聴けるチューニングがなされている印象で、クールなモニター的な鳴り以外受け付けないという人以外で、この音作りが苦手という方は少ないのではないかと思います。

■帯域バランス

中域 >= 低域 >= 高域

帯域バランス的にはどの帯域も過不足なくほぼ均等に出ている印象ですが、一番前面に押し出され目立って聞こえるのは中域で、低域、高域と続きます。

中域はボーカル、楽器ともに多少太目の質で生々しく鮮やかな出音です。

低域もローエンドまで十分な量が出ており、中域が太目なこともあって微妙にその帯域と重なることもある印象ですが、ボワつくことは無く非常に良質に感じます。

高域についてはかなりシルキーかつ繊細な鳴り方で、量としては必要十分で質も非常に良いと感じますが、あまり目立ちません。

高域の突き抜けるような鳴り方が好みの方には物足りない可能性があります。

■音場・定位・解像度

音場はイヤホンとしてはかなり広めに感じます。

ODINの音場表現で特徴的だと思ったのが、一般的に音場が広いイヤホン、ヘッドホンというのは、音が鳴っている位置そのものが遠い(遠くに音が定位する)傾向が多い気がするのですが、ODINに関しては音が鳴る位置自体はそこまで遠く感じる訳では無く、音が鳴っている位置よりも外側の空間を感じられるような、広がりのある不思議な音場を感じます。

定位感は十分良いですが、各音の響き、余韻が豊かで、前述した外側に拡散するような不思議な音場表現の影響もあり、多少定位が曖昧になることがあります。逆にそれが空間の中で自然に音が鳴っているように聞こえる要因でもあると思います。

解像度については総合的にみると非常に優れています。各音の分離感はそこまで強調されている訳ではありませんが、非常に細かいディテールまで描写されています。これは各帯域に複数のドライバを割り当てている恩恵だと思います。

■音漏れ・遮音性

ダイナミックドライバを搭載するイヤホンの宿命として筐体にベントがあり、音量を上げていくとそこからしっかり音漏れします。

一方で、装着時の耳への密着度は高く、外音遮音性は平均よりも高いと思います。

総合すると、密閉型のイヤホンとしては平均程度の音漏れ耐性と遮音性だと思います。

騒音化での移動(電車など)を伴うポータブル用途では、音漏れに注意する必要はありますが、十分利用可能なレベルです。

■装着感

搭載しているドライバの種類と数からすると筐体はだいぶコンパクトですが、平均的なサイズよりはやはり大きく、耳が小さめの方にはキツめのフィッティングになる可能性があります。

重量は樹脂製筐体にしては重め(それでも金属筐体に比べれば軽い)で中にみっちりとドライバが詰まっていることを体感させられます。耳に当たる面はカスタムIEMに近い形状になっており、装着時は耳にしっかりはまり込み、長時間の装着でも痛みや違和感などは感じにくいです。

ステム部は5ボアのノズルを備えているとは思えないほど細く精密に作られていますが、イヤーピースが引っかかる凹凸がほとんどなく、イヤーピースが緩んだり、ステム部に皮脂が付着していたりすると、取り外しの際にイヤーピースが耳の中に残ることが頻発します。

イヤーピースが外れやすい点を除けば、総じて非常に良い装着感だと感じます。

■その他、備考

EMPIRE EARSの製品は過去にValkyrie (Universal fit)とLegend X (Universal fit)を所有していたことがあり、それらがかなり個性的なチューニングで音源によってはあまり好ましくない鳴り方をする場合があったのに対し、ODINは優等生的なリスニングイヤホンとして高いレベルでまとめられており、聴く音源を選ばない万能機となっているかと思います。

音質だけ見れば定価40万円弱という価格でも致し方なしと思わされる部分もありますが、一方でEMPIRE EARSのビルドクオリティには多少の不安が残ります。

多ドライバで複雑なネットワーク構成になっていることが災いし、ドライバや内部回路の不良で特定周波数帯域で左右バランスが崩れたり、ノイズが乗ったりなどの出音に関する初期不良が比較的多いと聞きます。

また、出音には影響は無いものの、フェイスプレート部の接着が甘く通常使用をしていただけで剥離が起こったり、接着跡の白い線が存在していたり、筐体の一部に大き目の傷や凹みがあるといった外観上の不良も報告されていたりします。

上記の動作、状態についての不良は、どこまでが仕様でどこからが不良かの判断が販売店やメーカー次第となってしまうため、自分としては不良品だと思っているものが交換してもらえない可能性があります。

また、ODINの特徴的なBifrostフェースプレートはハンドメイドで作成され、ひとつとして同じものが無く、展示機のデザインに惚れた新品購入したものの、実際に手元に来たものについては配色バランスや模様が気に入らないなどの可能性が大いにあります。

総じて、新品で購入するよりも、中古で自分の納得できる状態・動作のものを購入する方が、単純に価格が安いというだけでなく、満足度が高くなるのではないかと思います。

かく言う私も中古で購入しましたが、フェースプレートの配色バランスや模様でまず絞り、目立つ傷や汚れが無く、出音についても周波数スイープや普段聞く音源で確認して、全く問題が起こらないものを選び抜いたので、非常に満足しています。

もしODINの購入を検討している方がいらっしゃるのであれば、納得の行く個体に出会えることを祈っています。