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final 糸竹管弦

[レビュー] final 糸竹管弦

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■製品仕様・特徴など

シングルダイナミックドライバ1発で定価30万円弱、世界500台限定、シンガポールのオーディオブランドDITAとコラボ、とかなり攻めた内容のイヤホンです。

名機と名高い final A8000 と同様に、ダイナミックドライバはピュアベリリウム振動版が使用されており、チューニング、外装、付属ケーブルを変更したアレンジモデルかと思いきや、筐体の大きさまでも微妙に違います(糸竹管弦の方が厚み方向に小さい)。A8000のハウジング内部は複雑な構造のエアーチャンバーが存在していることが公開されており、糸竹管弦の開発においてそのあたりにも調整が入っているのかもしれません。

ハウジング外装の仕様も豪華で、沈金という漆と金を用いた装飾がなされています。ステンレス鏡面加工のA8000よりは傷はつきにくそうですが、どちらにせよ使用時に気を使うことは間違いないです。

また、付属純正ケーブルはDITAのオスロケーブルを糸竹管弦用に特別チューニングしたもの(芯線をツイストする構造から編む構造に変更、被覆構造も変更、オリジナルデザインを適用)ですが、こいつがかなりのクセモノです。ケーブル自体が2重被覆されており固めなのは丈夫そうで良いのですが、それに加えて癖が非常につきやすく、使用時にも収納時についた癖で丸まろうとするため取り回しが非常に悪いです。全然真っすぐになってくれません。プラグ側を上にしてしばらく吊るしておくと一時的に真っすぐになるのですが、何かの機会に丸めて収納するとまたくるくるくるくるくるくると元通りになります。。。なので、通常のオスロケーブルにリケーブルして使用することが多いのはここだけの秘密。

A8000ではfinalが「トランスペアレント」な音を目指して開発を行い、見事に意図通りの音を作り上げましたが、finalと同じくダイナミックドライバ1発のハイエンド機を複数有するDITAとのコラボによって、どのような音が作り上げられているか非常に気になるところです。

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 : オスロケーブル Gen.SK (純正付属ケーブル) MMCX - 4.4mm5極バランス

・イヤーピース : final type E

■サマリー

・[モニター] - - 〇 - - [リスニング]

・帯域バランス : 高域 = 中域 = 低域

・音場 : [広] - - 〇 - - [狭]

・定位 : [正確] 〇 - - - - [曖昧]

・解像度 : [良] - 〇 - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] - - - 〇 - [悪]

・装着感 : [良] - - 〇 - - [悪]

■全体的な音質傾向

一言で言うと、全ての音を真面目にレスポンス良くクリアに表現しつつも、モニター的になりすぎず各音の艶などもしっかり感じられ、音楽を音楽として楽しむことができる良機です。

各音のエッジ、粒立ち感については多少強めで、各音の輪郭やアタックを感じやすい傾向にあります。

音の太さについては自然であまり色付けを感じません。

音の響き、余韻の表現は必要十分で、各音のクリアさを失わない範囲で艶や空間的な鳴りはしっかりと感じられます。

全体的にはダイナミックドライバとしては多少固めの音の傾向がありますが、それがクリアさ、レスポンスの良さにそのまま繋がっている印象です。

振動版を金属などでコーティングした機体においては固めでソリッドな出音を実現できる一方で、耳障りな響きが付加されてしまうことがありますが、本機においてはそのような問題は無く、自然な鳴り方を維持しています。

このあたりがピュアベリリウム振動版の恩恵なのかもしれません。

モニターとリスニングのちょうど中間あたりに位置するように感じられ、音楽を分析的に聴くことも、何も考えずに楽しむことも、どちらも許容してくれます。ただし、純粋なリスニング用イヤホンとして使用する場合には、少し聞き疲れしやすい出音の傾向が気になる可能性があります。

■帯域バランス

高域 = 中域 = 低域

帯域バランスは自分にとってはフラットに聞こえ、逆ピラミッドバランスに感じられるA8000の高域を抑え、低域を盛ったようなバランスです。

中域はボーカル、楽器ともに自然に鳴り、艶もある程度感じられますが、必要以上に脚色していない印象です。

高域についてはA8000よりは抑えめになりましたが、それでも量としてはしっかりと出ており、質感としてもクッキリ、ハッキリした傾向があるためそれなりに目立ちます。

低域はダイナミックドライバらしくしっかりローエンドまで出ており、量も必要十分で、広がりすぎず制動されて聞き取りやすい質感です。

総じて、全帯域に渡ってクリアでレスポンスの良い鳴り方に感じます。

■音場・定位・解像度

音場は広くも無く狭くも無くイヤホンとしては平均的な広さですが、空間性を感じるには十分です。

定位感は非常に良いです。このあたりがダイナミックドライバ1発構成の強みだと思うのですが、空間の中で自然に鳴っている感覚を残しつつ、音が鳴っている位置がブレたり滲んだりせずに明瞭に表現されている印象です。

解像度についても十分良いです。ダイナミックドライバ1発構成の場合は、自然な音場や定位感を得られる代償に、各音の分離感や細かい描写が犠牲になる傾向にありますが、本機ではBAドライバに匹敵するレベルの解像度を実現できていると思います。

■音漏れ・遮音性

イヤホン本体にベントがありそこからの音漏れもあるのでしょうが、筐体自体の響きも豊かなようで、音量を上げるとメロディーラインがはっきりとわかるレベルで音漏れします。

イヤーピースとその他数点の接触で支えて装着する感じで耳への密着度が低く、遮音性についてはあまり高くはありません。

密閉型のイヤホンとしては、音漏れ耐性と遮音性は平均よりも低い印象です。

騒音化での移動(電車など)を伴うポータブル用途の場合、周囲に人がいるような環境だと外音を遮音できるほどに音量を上げることは難しいと思います。

■装着感

金属製で重量はそれなりにありますが、筐体自体が小さくその点が気になることは少ないと思います。

人によって問題になってきそうなのは独特の装着感で、音漏れ・遮音性の項でも述べたように、イヤーピースとその他数点で筐体を支え、耳には密着しないタイプなので、私が使用する際には装着位置が安定せず、気持ちの良い鳴り方をする位置を探ることになりがちです。

一度スイートスポットを見つけてしまえば使用時にズレることはあまりありません。

■その他、備考

finalはPiano Forteシリーズを出したあたりから認知はしていたのですが、なんかキワモノが多いなぁという印象で一度も聞いたことが無かったのですが、ふと店頭でA8000の試聴機を聴いて、ダイナミックドライバ1発とは思えないクリアでレスポンスの良い音色に衝撃を受けました。ただ、試聴時の印象としてA8000は高域が目立ち低域が控えめな逆ピラミッドバランスに感じ、自分の好みの音質傾向とは少し外れていたため即購入には至りませんでした。

しかし、finalは非常に真摯に音作りを行っているメーカーだと認識を改めさせられ、新たにリリースされる新製品についても気にするようになりました。

そこに登場したのが糸竹管弦で、店頭で試聴した際にA8000にあった高域のキツさが抑えられ、低域も量感が増し、その上でA8000の最大の特徴である全帯域でのクリアでレスポンスの良い鳴り方がある程度維持されていると感じられたため、ダイナミックドライバ1発のハイエンド機は当時所有していなかったというのもあり、衝動買いしてしまいました。

他のイヤホンには無い唯一無二の個性、finalが言うところの「トランスペアレント」な鳴り方という観点においては、A8000と比較すると糸竹管弦においてはその個性が薄められているため、A8000の方が明確な使い分けがしやすく好ましく思う人もいるかとは思いますが、多くの人に受け入れられやすいのは糸竹管弦の音なのではないかと思います。