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iFi Audio xDSD Gryphon

[レビュー] iFi Audio xDSD Gryphon

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■製品仕様・特徴など

iFi Audioは低価格帯から高価格帯まで多数のDAC / AMP を製品ラインナップに持ち、特にZENシリーズが有名ですが、今回レビューする xDSD Gryphon は定価では8万強と、iFi Audioの中ではミドルクラスの価格帯に位置するポータブルDAC / AMPです。最大の特徴としては、同社はもちろんのこと、現行の他社製品を含めても類を見ないほどの多機能である点が挙げられると思います。

具体的な製品仕様については私が説明するよりも公式サイト見た方が分かりやすいので、

ifi-audio.jp

をご覧ください。

xDSD GryphonはポータブルDAC / AMPとしては圧倒的な入力I/Fの多さによる接続性の高さを誇っており、USBによるデジタル接続は基本として、Bluetoothに関してはレシーバーとして現行の高音質コーデックを全てサポートしており、更には背面の4.4mm、3.5mmの端子を使用して、ライン入出力まで可能となっています。イヤホン / ヘッドホン出力としては最近では高価格帯のDAPDAC / AMPではデファクトとなってきたバランス接続をサポートしており、端子が4.4mmなのも個人的には非常にポイントが高いです。

もともとCayin N6iiのA02モジュールを使用するために4.4mmでバランスのライン出力 / Pre出力を入力することができるAMPを探しており、Oriolus BA300Sのような製品もあるにはあったのですが、国内では中古でしかも古いバージョンのものしか手に入らないという状態でした(AliExpressでは新バージョンの新品が購入できるようですが、到着まで時間がかかる点や万が一初期不良があった際などに対応が厳しそうなので今回は避けました)。そのような状況の中、xDSD Gryphonは4.4mm端子によるバランスライン接続が可能なだけでなく、他でも前例が無いほど多数の機能がiFi Audioの集大成と言わんばかりに結集されていたため、下調べや試聴もそこらで思わず購入してしまいました。

製品仕様だけ見ると、「俺が考えた最強のポータブルDAC / AMP」を妥協することなく実現した製品に見えますが、実際のところは本当に最強のポータブルDAC / AMPになっているのか、実際に音を聞いて判断していこうと思います。

■試聴環境

今回のレビューでは今までのレビューと異なり、普段レビューの際に使用しているDAP単体の構成や、xDSD Gryphonやその他機材を使用したいくつかの構成で音質を比較します。

全ての構成において、試聴に使用するイヤホンは、HUM Dolores Universal Fit (final Type E イヤーピース装着) で、ケーブルは HUM CX1(絹巻初期Ver.) 2pin - 4.4mm 5極プラグ を使用します。

試聴音源は全てAmazon Musicの最高音質(HD / Ultra HD)になります。

また、xDSD Gryphonには音質調整のための設定がいくつか存在しますが、特別な記載が無い限りはそれぞれ以下のような設定としています。

・デジタルフィルタ : スタンダード

・iEMatch : 無効

・XBase II / XSpace : 無効

・Base / Presence 補正 : Presence

 

以下が今回試聴を行った機材構成になります。

□構成0 : DAP単体

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

□構成1 : xDSD Gryphon [USBデジタル接続]

・ソース : Cayin N6ii (A02モジュール)

・接続 : 純正付属ケーブル USB Type C - USB Type C デジタル接続

DAC / AMP : xDSD Gryphon

□構成2 : xDSD Gryphon [4.4mm バランスライン接続]

・ソース : Cayin N6ii (A02モジュール)

・接続 : HUM Tara 4.4 mm - 4.4 mm バランスライン接続

DAC / AMP : xDSD Gryphon

□構成3 : xDSD Gryphon [Bluetooth(LDAC)接続]

・ソース : Cayin N6ii (A02モジュール)

・接続 : Bluetooth(LDAC)

DAC / AMP : xDSD Gryphon

□構成4 : xDSD Gryphon [BluetoothAAC)接続]

・ソース : iPhone 11 Pro

・接続 : BluetoothAAC

DAC / AMP : xDSD Gryphon

□構成5 : Acoustune AS2000 Lightning Adapter [Lightning - 4.4mm アダプター接続]

・ソース : iPhone 11 Pro

・接続 : Acoustune AS2000 Lightning Adapter(Lightning - 4.4mm)

DAC / AMP : Acoustune AS2000 Lightning Adapter

■音質比較

□構成1 : xDSD Gryphon [USBデジタル接続]

xDSD Gryphonとの接続ではひとつの基準となる接続ですが、DAP単体の場合と比較すると一番大きな違いと感じたのが空間の広がり感と立体感です。DAP単体だと比較的耳のすぐ外側で鳴っていたような音が、全体的にもう少し遠くに配置され、より広い空間の中で立体的になっているように聞こえます。また、各音に多少響きのようなもの付与され、より艶っぽい鳴り方をする印象です。

一方で、各音の定位感や詳細な描写、ボーカルや楽器の生々しさ / 実在感についてはDAP単体の方がわずかに優れている印象です。

帯域バランス的にはDAP単体、xDSD Gryphonともに特別強調されるような帯域は無くフラットに近く、両者を比較しても各音域の量感に大きな差はありませんが、DAP単体の方が全体的に硬質でパキッとしたアタック感の強い鳴り方で、xDSD Gryphonでは低域はより弾力があり、中域は艶やかで、高域はもう少ししなやかに聞こえます。

まとめると、DAP単体の方はどちらかというとモニター寄りの傾向の鳴りで、xDSD Gryphonの方はより音楽的でリスニング寄りな鳴り方という差異がありました。

個人的にはどちらの音色も甲乙つけがたいですが、イヤホンのレビューをする際などで集中して音楽を聞く際にはDAP単体で、普段使いで楽しく音楽を聞くならxDSD Gryphonの方を使いたいという気持ちにさせられました。

□構成2 : xDSD Gryphon [4.4mm バランスライン接続]

一聴して違いを感じたポイントは帯域バランスで、低域~中域までが高域と比べると目立つピラミッドバランスの音質傾向になっています。

全体的には今回試聴した構成の中でも最も滑らかで柔らかさや温かみを感じさせる音色です。高域は多少控えめで目立ちづらく鮮やかさや華やかさには欠けるかもしれませんが、低域の沈み込みは深く、中域は太めで密度感があり、個人的には非常に気持ちの良い鳴り方をしていると感じます。音場自体もDAP単体の場合と比較して多少拡張されており、太めで密度感のある音を出していても窮屈さは感じさせない絶妙なバランスです。

また、空間表現として特徴的な点としては、特に奥行(前後)方向の立体感に優れている点が挙げられ、目の前で演奏している音を聞いている感覚というものを感じやすいです。

Cayin N6iiのA02モジュールでは使用しているDACチップがA01モジュールと同じAK 4497EQなこともあり、A01の音質傾向を維持したまま全体的にレベルアップさせたような印象の音に感じました。

今回試聴した構成の中では個人的な好みと最も合致した音質傾向ですが、DAPと xDSD Gryphon を有線接続しなくてはいけないという取り回しの悪さがあるため、家の中でリラックスしながら音楽に没頭したい時などに特に使いたいという印象です。

□構成3 : xDSD Gryphon [Bluetooth(LDAC)接続]

構成1のUSBデジタル接続した場合とほとんど遜色の無い音を聞かせてくれます。わずかに高域の伸びや響きが減少するような気もするのですが、ブラインドテストをしたら聞き分けられない自信があります。

気になる点をあえて挙げるとしたら、Bluetooth接続をしている場合にはバックグラウンドノイズがUSBデジタル接続の場合と比べてわずかに増えるということと、これはDAPBluetoothの電波強度が弱いせいかもしれませんが、たまに音切れをしてしまうという点くらいです(DAPとxDSD Gryphonがそれほど離れていなければ音切れの頻度はかなり下がります)。

やはりDAPとxDSD Gryphonの間のケーブルが無くなるだけでも取り回しや利便性はかなり向上するので、デジタル接続する場合はBluetoothで運用するケースが多くなりそうです。

□構成4 : xDSD Gryphon [BluetoothAAC)接続]

この接続では、構成1のUSBデジタル接続や、構成3のBluetooth(LDAC)接続の場合と比較して、それなりの音質の劣化を感じます。一番顕著に違いが出たのがやはり高域で、構成1や3であったしなやかで伸びが感じられた鳴りが、多少すんづまってバシャバシャとした鳴りになってしまいます。また、魅力であった空間の広さや立体感も控えめになり、全体的に耳の近くで平面的に鳴るようになった印象です。

一方で、音が近く平面的になったことで密度感や勢いは感じやすくなっている気がするので、ロックやポップスを聞く上ではそこまで問題となる音質の劣化では無いとも感じました。

個人的には、腰を据えて音楽を聞くぞという時にはあと一歩物足りなさを感じそうですが、ポータブル用途や作業中に聞き流すような用途としては十分な高音質だと思いました。

□構成5 : Acoustune AS2000 Lightning Adapter [Lightning - 4.4mm アダプター接続]

xDSD Gryphonは全く関係が無いので番外編な感じになってしまいますが、xDSD Gryphonを使用することでどれだけの音質向上が得られるかということを考える上では重要だと思い試聴してみました。4.4mmで接続していますが、iOSの仕様上バランス駆動にはならないようです。

一聴して気になるのが空間の狭さで、他の構成と比較するとかなり頭内定位感を感じる平面的な鳴り方です。また、帯域バランスとしては低域~中域はそこまで悪くないのですが、高域がかなり出にくい印象です。構成4のすんづまってバシャバシャとなっている感じとはまた違って、単純に量が少なく感じます。

常に持ち歩いてるiPhoneとアダプターさえあれば音楽が聞けるので非常に手軽ですし、音が明らかに歪んだりしているなどの感じはしないので十分楽しく聞ける範囲ではありますが、せっかく音楽を聞ける時間があるならばもう少し良い音で聞きたいなぁという本音が漏れてしまいそうになります。

また、iPhoneに音楽再生のみをさせていれば良いのですが、ブラウジングなど他の操作をしていると、それほど頻度は高くないものの、操作するタイミングに合わせて音が切れたり飛んだりノイズが乗ったりという現象には遭遇しました。

個人的にはこの構成で音楽を聞くことは、できる限り荷物を減らして身軽な状態で出かけたい時以外はほぼ無いのではないかと思いました。ただでさえ気になるスマホの電池持ちが更に悪くなるのも精神衛生上よろしくありません。

■製品独自機能の音質への影響

xDSD Gryphonでは製品独自の音質調整機能として、iEMatch、XBase II / XSpace、Base / Presence 補正、デジタルフィルタを備えています。

□iEMatch

本体底部の切り替えスイッチで、有効(3.5mm出力)/ 有効(4.4mm出力)/ 無効 の3通りから選択することができます。

感度の高いイヤホンなどで発生する、アンプ由来のサーというバックグラウンドノイズ(ヒスノイズ)を抑えるための機能で、有効にすると一聴して音量が下がることが確認できます。個人的には無効の状態で気になるほどのヒスノイズを感じることが無かったため、あまり有効にする恩恵を感じられませんでした。有効にした際には内部的には余分な回路を通ることになるため、それによる音質劣化の可能性が考えられる他、音量が下がった分を取り戻そうとしてボリュームを上げるとそれだけ消費電力が増加して電池持ちが悪くなったり、アンプへ過大な負荷がかかる場合もあるので、よほどヒスノイズに悩まされている場合以外は有効にする必要はないのでは無いかと思います。

□XBase II / XSpace

本体フロントパネルの切り替え用ボタンを押すことで、無効 / XBase II / XSpace / XBase II + XSpace の順に4通りから選択することができます。これは切り替えた際に非常に分かりやすく音質が変化します。

XBase IIを有効にすると主に中低域~低域にかけての強調と、それらと比較すると控えめなレベルですが中域に関しても強調され、全体としては重心が低域側に移り安定感のある聞こえ方をするようになります。

一方で、XSpaceを有効にすると中高域~高域が強調され鮮明に聞こえるようになるとともに、抜けが良い空間的な広がりやクリアさをより感じられるようになります。

両者を有効にすると、相対的には中域以外の帯域が持ち上がるため、中域は多少引っ込んだような聞こえ方をするようになります。これはいわゆるラウドネスのような効果があり、無効時と比較して音量を絞った状態でもより鮮明な聞こえ方をするようになります。音源によってはドンシャリでうるさい鳴り方になるケースもあり、XBase II / XSpace の両者を有効にする場合には、あわせて多少の音量調整が必要になるケースも多そうな印象です。

XBase II / XSpaceはデジタル信号処理では無く純粋なアナログ信号処理で実現しているようで、有効にした際には聴感上でも特に違和感を感じることなく自然な出音に聞こえ、音質を損なうことなく帯域バランスや空間表現の調整してくれているように感じます。

□Base / Presence 補正

本体リアパネルの切り替えスイッチで、Presence / Base / Base + Presence の3通りから選択することができます。

この補正機能はマニュアルの記述を見たりスイッチを切り替えながら試聴した感じでは、XBase IIが有効になっていないと効果が無いようです。こちらも XBase II / XSpace を切り替えた際と同程度の比較的大き目の変化を感じることができます。

Presence補正はマニュアルでは主に中高域をブーストするとのことで、中域~高域にかけてブーストされるのか、中高域の帯域のみブーストされるのか判断がつきづらいのですが、Base補正のみ有効な場合と比較すると、聴感上ではボーカルも含めて強調されて前に出てきて、金物の鳴りも鮮明になるため、中域~高域にかけてブーストされているのではないかと思います。Base補正のみ有効な場合をPresence補正のみ有効な場合と比較すると、暗くて少しくぐもったような深い鳴り方に特徴があります。一方で中域~高域が抑えられた分音量を上げやすく、聴感上の音量をそろえた場合には低域の迫力を非常に感じやすくなりますし、くぐもっている感じもほぼなくなります。Presence補正とBase補正を同時に有効にすると、全帯域に渡って濃密な印象の出音になりますが、空間が音で埋め尽くされがちな傾向もあるため、好き嫌いが分かれそうです。

個人的にはPresence補正のみ有効な場合が最もバランス良く、スッキリとした明るい音色に聞こえます。

□デジタルフィルタ

XBase II / XSpace 切り替え用ボタンを長押しすることで入れるメニュー設定から、ビットパーフェクト / スタンダード / GTO(Gibbs Transient Optimised)の3通りから選択することができます。

・ビットパーフェクト : デジタルフィルタ無し

・スタンダード : 適度なフィルタリング、適度なプリ、ポストリンギング

GTO : 384/352kHzにアップサンプリング、ミニマムフィルタリング、ノープリリンギング、ミニマムポストリンギング

のような設定になっているようです。

肝心の音質ですが、XBase II / XSpace や Base / Presence 補正 を切り替えた時ほどの変化を感じず、各フィルタ設定の音質に与える影響を把握した上で、音源についてもある程度選んで注意深く聞き比べないとわからない程度の違いに収まっていると思います。ですので、フィルタがかかっていること自体が精神衛生上気持ち悪いという人はビットパーフェクトを選べば良いですし、高音質化を目指して厳密に設計・調整された最新のフィルタを楽しみたければGTOを選べば良いですし、特に何も気にせずスタンダードのままでも全然良いと思います。

他の音質調整項目と比較すると、一度決めたらそう設定しなおすことは無いのかなと思います。

■xDSD Gryphonの良い所 / 気になる所

xDSD Gryphonの良い所と気になる所をそれぞれ簡単にまとめます。

□良い所

・非常に柔軟な接続性。

- ポータブルDAC / アンプとしては入出力のオーディオインターフェースが充実していて、他の機器との接続で困ることはまずないと思われます。

・基本性能が高く調整も可能な音質。

- ポータブル用途としてだけでなく、据え置きとして使用するにしても十分満足できる基本性能の高い音質を実現しつつ、独自技術であるXBase II / XSpaceでの音質調整も可能で非常に懐の深さを感じます。

・十分な電池持ち。

- 製品仕様にある通りの、一日外に持ち出して音楽を聞くのに十分な連続駆動時間を実現しており、バッテリーが劣化してしまわない限りは電池持ちが悪くて困るという事態は発生しないのではないかと考えられます。

・良好なビルドクオリティ。

- 後述する一部の点を除き、筐体は全面に渡って滑らかに加工された金属で仕上げられており、非常にビルドクオリティの高さや高級感を感じさせる仕上がりになっていると思います。

□気になる所

・4.4mmジャックの出来がイマイチ。

- 使用しているパーツの品質があまり良くないのか、4.4mmジャックに関しては挿しこむ際の感触が滑らかとは言い難く、たまにガリガリとこすれるような感触や音が発生することがあり、プラグ側、ジャック側、ともに傷んでしまわないかが心配になります。

・XBase II の有効 / 無効を示すLEDインジケータのラベルがXBase+となっていること。

- 公式ページなどの製品画像(恐らくCGモデル)だと、XBase II の有効 / 無効を示すLEDインジケータのラベルはXBase IIとなっているのですが、実際に本体に印字されているラベルではXBase+となっています。マニュアル中でもこのあたりの記載がブレブレで、少し惜しさを感じます。

■最後に

xDSD Gryphonを買ってどうだったかと聞かれれば、間違いなく非常に満足していると答えますし、ポータブルDAC / AMPを探している人に対しては、値段さえ許容できれば非常におススメでき、コスパも高い製品だと感じています。

また、2022/01/19現在であれば、1月末までのケーブルプレゼントキャンペーンで定価1万円以上の 4.4mm - 4.4mm ミニミニケーブル か 4.4mm - XLR ケーブル を無料で貰えるため、非常にお得になっています。

この記事を読んでxDSD Gryphonが気になってしまったそこの画面の前のあなた、買うなら今しかないですよ!