ポタオデと音楽

ポータブルオーディオ機器と音楽についての感想・レビューをぱらぱらと。

EMPIRE EARS WRAITH

[レビュー] EMPIRE EARS WRAITH

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■製品仕様・特徴など

日本では2019年9月に発売開始した、EMPIRE EARSの当時のフラッグシップモデルです。2020年9月には現フラッグシップモデルであるODINが発売開始されており、実質フラッグシップモデルであった期間は1年ほどで、人気も同社のODIN、Legend X、Valkyrieなどには及ばない印象で、あまり評判も聞かない不遇なモデルです。EMPIRE EARSもEMPIRE EARSで、自社のフラッグシップモデルにWRAITH(死霊、亡霊、幽霊)などとひどい名前を付けるものです。

多ドライバでの音作りを得意とするEMPIRE EARSらしく、低域(BA)×2、中域(BA)×3、高域(BA)×2、超高域(ES)×4 というかなりの多ドライバ構成になっています。ちなみに、11ドライバ 4ウェイ かと思いきや、クロスオーバー的には 5ウェイ synX クロスオーバー らしいです。(synXってなんなんでしょうね。ドライバ数より帯域分割数の方が多いことがありますが、1ドライバを複数帯域に分割して鳴らしていたりするのでしょうか。)

BA+ESTのみで構成されたハイブリッドモデルとしては、ULTRASONE Saphire / Ruby Sunrise、Oriolus Traillii JP、qdc Anole V14、Moondrop SOLISあたりがありますが、市場の多くのESTを積むモデルはここにDDを足したトライブリッド構成を取るため、BAとESTのみで構成されたモデルは結構貴重なのではないかと思います。

付属する純正ケーブルは Effect Audio Cleopatra (4wire) で、このケーブルだけで普通に買うと10万弱する高級ケーブルです。専用設計のオリジナルケーブルではないものの、フラッグシップモデルだけあってさすがに力が入っています。プラグは日本版では3.5mmのみですが、海外版では2.5mmのものも購入できたようです。私の所有しているWRAITHは海外版の2.5mmプラグのものです。また、2pinコネクタとプラグのパーツは Effect Audio 純正のものと変わりはないようですが、ケーブル分岐部のスプリッタはEMPIRE EARSのロゴが入ったかなり小型のものに変更されています。Effect Audio の大きめのスプリッタは高級感はあるのですが、ケースにしまう時やポータブル用途では邪魔になることがあるので、小型のパーツが採用されていることはデザイン云々より機能性の面で個人的に嬉しいポイントです。

本体のフェースプレートは Amethyst Haze という WRAITH 専用のデザインとなっています。アクリル製のアメジスト色の材料とブレンドされたカーボンで構成されていて、ODIN の派手派手虹色フェースプレートと比較すると写真で見る限りでは非常に地味な印象です。ですが、実物を目の前にすると奥行感を感じる多層で構成されたデザインをしていることが見て取れ、角度を変えると銀色の靄のような模様も現れ、「幽玄」という言葉で表現したくなるような奥深いデザインになっていると感じます。

ちなみに翼モチーフのメーカーロゴは相変わらず残念な感じです。せめて、全モデルで "E" が向かいあう形状のシンプルな方のロゴに統一してもらいたいものです。Amethyst Haze フェースプレート自体の出来が上質で気品あふれる仕上がりをしているのに、そこにいかにもアメリカンなウイングロゴが乗ることで一気に雰囲気を台無しにしてしまっている感じが強いです。

EMPIRE EARSのイヤホンのレビューになるとどうしてもデザインに文句をつけてしまいがちですが(主にウイングロゴのせい)、イヤホンにとって最も重要なのは音質です。BA+ESTのモデルでは ULTRASONE Saphire を以前に所有していてある程度音質についても記憶にあるので、それと比較して音質傾向の違いがあるのかなどを考えながら聞いていきたいと思います。

 

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 : Effect Audio Cleopatra 4wire (純正付属ケーブル) 2pin - 4.4mm5極バランス (変換アダプタ使用)

・イヤーピース : final type E

 

■サマリー

・[モニター] - - 〇 - - [リスニング]

・帯域バランス : 中域 >= 高域 = 低域

・音場 : [広] - - 〇 - - [狭]

・定位 : [正確] - 〇 - - - [曖昧]

・解像度 : [良] 〇 - - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] 〇 - - - - [悪]

・装着感 : [良] - 〇 - - - [悪]

 

■全体的な音質傾向

一言で言うと、フォーカス感が強く艶やかなボーカルを中心として、その周りを多少の柔らかさを持った細やかな鳴りの楽器の音が取り囲む、非常に上質な表現をする万能機です。

各音の描写はかなり細かく粒立ち感を十分感じられますが、音の輪郭については少し丸みをおびており、柔らかさや滑らかさを感じさせる傾向にあります。

音の太さについては平均よりわずかに太めに感じますが、基本的には原音に忠実に鳴らしており、試聴する音源によってかなり受ける印象が変わります。ロックなどの楽曲で各音が太めに録音されているものはかなり厚みや密度感を感じる鳴りになりますし、逆に小編成のアコースティックな楽曲においては、各楽器の繊細な鳴りまでしっかりと拾い、すっきりとクリアに鳴らしてくれる印象です。

音の響き、余韻の表現についても原音に忠実な印象で、余計な脚色を感じません。

全体的にはモニター傾向とリスニング傾向のちょうど中間あたりの出音になっていますが、このあたりの印象も音源に左右されやすい印象です。総じて上流(音源、DAPDAC / AMP、ケーブル)の影響が鳴り方に反映されやすいというのが最大の特長かと思います。

 

■帯域バランス

中域 >= 高域 = 低域

帯域バランス的にはどの帯域も過不足なく出ている印象ですが、強いて言うなら一番前面に押し出され目立って聞こえるのは中域になります。高域、低域に関しても中域に追いやられることなくしっかりと聞こえてきます。

中域はボーカル、楽器ともに平均よりもわずかに太めの質で、柔らかさや滑らかさが感じられる艶やかな鳴り方をします。

低域はローエンドは控えめで沈み込みは少々弱い印象ですが、ローエンドよりも上の帯域から中域までに関しては十分な量が出ており、低域の量感の不足を感じることは少ないと思います。

高域についてはESTを4基積んでいるのでどれだけ鮮烈な音が出てくるのかと思いきや、実際の出音は非常に丁寧で落ち着きのあるシルキーな音で、ESTを複数積むことで1ドライバあたりの負担を減らしつつ十分な音量を稼ぐことで、歪みをできる限り抑えるような調整がされているのではないかと思います。伸びや空間に広がっていくような響きを十分に表現できていますが、やはり滑らかさや繊細さが目立つ傾向にあり、刺激的で鮮やかな鳴り方を求める方には少々物足りないと思われます。

 

■音場・定位・解像度

音場はイヤホンとしては平均的で、広大な空間から音が聞こえてくる訳ではありませんし、逆に耳の近くに音が集まりすぎて狭苦しさを感じさせるということもありません。

基本的には音場に関しても原音に忠実に鳴らす印象で、このイヤホンの特性で音場が広くなったり狭くなったりするという感じはあまりしません。

定位感は十分良いですが、各音が平均よりわずかに太めなこともあり、出音の滲みを多少感じることもあります。

解像度については非常に優れています。各音の分離感はそこまで強調されている訳ではなくどちらかというとまとまりの良さを感じますが、各楽器の音を追ってみると非常に細かいディテールまで描写されていることに気づきます。

 

■音漏れ・遮音性

筐体にベントなどは無く、ノズルをしっかりと塞げば音漏れはかなり小さい方です。

装着時の耳への密着度も高く、内部が空洞の中空のシェルではあるものの、外音遮音性についても平均よりも高いと思います。

総合すると、密閉型のイヤホンとしては最高レベルの音漏れ耐性と遮音性がと思います。

騒音化での移動(電車など)を伴うポータブル用途でも、室内での使用時と比較してそこまで音量を上げることなく快適に利用可能だと思います。

 

■装着感

厚み方向にかなり大きく、ほとんどの人は多少耳から飛び出したような感じで装着することになるかと思います。一方で長さや高さ方向のサイズはある程度コンパクトに抑えられており、耳が小さめの方でもなんとか装着することはできそうです。

重量は樹脂製筐体にしては重め(それでも金属筐体に比べれば軽い)で中にみっちりとドライバが詰まっていることを体感させられます。耳に当たる面はカスタムIEMに近い形状になっており、装着時は耳にしっかりはまり込み、長時間の装着でも痛みや違和感などは感じにくいです。

EMPIRE EARSのイヤホンに共通した特徴ですが、ステム部にイヤーピースが引っかかる凹凸がほとんどなく、イヤーピースが緩んだり、ステム部に皮脂が付着して滑りやすくなっていたりすると、取り外しの際にイヤーピースが耳の中に残ることがあります。

また、EMPIRE EARSのイヤホンでダイナミックドライバを搭載しているモデルに関しては、装着時や装着後にイヤホンの位置を調整する際などにペコペコと空気圧でダイナミックドライバがたわむ音がするのですが、WRAITHに関してはBAとESTのみで構成されておりそのような音が発生しないのは精神衛生上とても好ましいです。

 

■その他、備考

どちらかというと派手で一聴して個々の機種の特長も分かりやすいEMPIRE EARSの他のイヤホンと比べると、WRAITHはフラッグシップモデルながら華やかさや分かりやすい特徴に多少欠けた傾向の音作りがされており、人によっては値段の割にかなりピンとこないイヤホンの可能性があります。

色々な音源を時間をかけて聞きこんでいくにつれ、各帯域のバランスの良さや各音の質感などが非常に丁寧に調整されていることに気づき、じわじわとその上質さに引き込まれていくのですが、試聴レベルだとその良さを感じることはなかなか難しいのではないかと思います。

WRAITHにはどんな音源でも原音に忠実に破綻無く鳴らす基本性能の高さがあるため、サブベース帯域の量感が非常に重要となる音源以外は基本的に問題無く楽しめるのではないかと思いますが、特に向いているジャンルとしては、音源自体の高域と低域に多少の強調があるポップスだと感じました。WRAITHのわずかに中域が張り出す音質傾向と合わさると全体として非常にバランスが良くなりつつ、艶やかなボーカルを非常に気持ち良く聞けるため、ただただ音楽に浸ることができます。

まとめると、WRAITHは基本性能の高い万能機ではあるものの、ハイエンドらしい一聴して惹き込まれるような魅力には少々乏しく、どちらかというと長く付き合っていくなかでじんわりとその良さが分かってくるスルメイヤホンだと思います。他のイヤホンで色々な傾向の音を聞いた後に、最終的に落ち着き、優しさ、安らぎを求めて戻ってきたくなるような、そんな安心感を感じさせてくれる点が個人的には非常に魅力的に感じています。

最後に、似たようなドライバ構成で、以前に所有していたことがある ULTRASONE Saphire との比較です。全体として、柔らかさや滑らかさがあり、どこか優しさを感じさせる音作りという点では基本的には似た音質傾向だと思いました。違いを挙げるとすると、記憶の中にある Saphire はもう少し音が太く、力強く濃密に鳴る印象で、それと比べるとWRAITHはクリアさや繊細さな表現に優れる、という感じになります。

もともと Saphire に関しては、その優しさとパワフルさを同時に感じさせる上質な音作りが魅力的でいつか買い直したいと思っていたのですが、Saphire に求めていたものは WRAITH でもかなりの部分が満たされることが分かったので、WRAITH を手放さない限りは Saphire を買い直すことも無さそうに思います。もちろん、一度ちゃんと聞き比べてみたくはありますが。

Saphire はハウジングの鏡面部分に非常に傷がつきやすく、取り扱いに非常に気を使うので、その点でも樹脂筐体の WRAITH はお気に入りです。もちろん金属筐体とは異なりシェルの割れなどが発生する可能性があるので、そのあたりは気を付けて末永く付き合っていきたいです。

かつての所有機たち ~追憶編~ 第一回

[簡易レビュー] かつての所有機たち ~追憶編~ 第一回

2021年の年末から現在までにかけて、フリマデビューして使わなくなった機器を売却してきました。今回はそれらの機器+αに思いを馳せながら、記憶の中にある彼らの音質について簡単にレビューをしていきたいと思います。

レビュー対象となる機種の数が多いため、全部で三回に分けて記事を投稿する予定です。

※ポタオデ沼にハマってから他にも多数のイヤホン、ヘッドホンを所有してきましたが、ハマり始めた当初に所有していた機材の音質についてはさすがに覚えていないため、ある程度音質を覚えている機材に対象範囲を絞っています。

■対象機材

本記事では以下の既に手元に無い機種について、三つの記事に渡って簡易レビュー(基本的には簡単な感想レベル)を行います。

本記事(第一回)では、赤太字の6機種がレビュー対象となります。

□イヤホン
  • Astell&Kern : Layla (Universal Fit) [売却]
  • Atomic Froyd : SuperDarts [行方不明]
  • DITA : Dream XLS [返品]
  • EMPIRE EARS : Legend EVO [返品]
  • EMPIRE EARS : Legend X (Universal Fit) [返品]
  • EMPIRE EARS : Valkyrie (Universal Fit) [売却]
  • Etymotic Reserch : Hf5 [破損]
  • Heir Audio : TZAR 350 [売却]
  • SONY : XBA-Z5 [売却]
  • ULTRASONE : Saphire [返品]
□ヘッドホン
  • AKG : K812 [売却]
  • bayerdynamic : DT1350 [売却]
  • Philips : Fidelio L2 [売却]
  • SONY : MDR-1R [売却]
  • SONY : MDR-Z1000 [売却]
  • SONY : MDR-Z1R [売却]
  • ULTRASONE : Signature DJ [売却]

■簡易レビュー

□Astel&Kern : Layla (Universal Fit)

www.e-earphone.jp

発売当初は40万円弱と他のイヤホンを寄せ付けない圧倒的に高額なハイエンドイヤホンで、ポタオデ沼につかった多くの人が一度は手にしたいと憧れた製品では無いでしょうか。

音質自体はBAを12ドライバ搭載しているだけあって、全帯域に渡ってかなり濃厚かつ各音をクッキリ、ハッキリと描写する鳴り方をしていた記憶があります。同時期に発売された下位モデルのAngieと比較すると、よりモニター然としてエッジが立ったクリアで解像感の高い鳴り方をしているのはAngieの方で、Laylaはどちらかというと各音の生々しさや空間表現、臨場感の演出に長けているという差異があったという記憶があります。

Layla、Angieともに純正付属ケーブルを使用している場合に低域の量の調整が可能ですが、低域は明らかにLaylaの方が量が多く出る傾向にあり、低域調整機構の無いケーブルで運用(低域調整を最大にしたのと同じ状態)しようとしていた私とっては、さすがに少々低域が多すぎでした。

また、初代Layla, Angieのシェルはハンドメイドで作成されており、個体によっては作りや仕上げが雑で傷ができてしまっていたり、左右でケーブルのコネクタの取り付け角度やステムの太さに差があることがままありました。私は中古でかなり安く購入しましたが、状態としてはほぼ傷の無い美品であったものの、コネクタやステムの左右での形状差が大きく、定価40万時弱の高額な製品としては少々納得の行かないビルドクオリティであったと思います。

上記の私の運用の仕方だと低域が多すぎる点と、ビルドクオリティがイマイチな点の合わせ技で売却決定と相成りました。

□Atomic Froyd : SuperDarts

www.e-earphone.jp

確か定価が3万円程度で、発売当時としてはハイエンドとは言えないものの、かなり高級な区分に含まれるイヤホンだったと思います。

最近では密閉型のカナル型というと、ケーブルを耳にかけ、イヤホンの本体の形状もカスタムIEMを参考にした耳へのフィット感の良いものとなっていますが、SuperDarts発売当時はケーブルはイヤホンからそのまま下に垂らし、筐体自体も耳に突っ込みやすいような細長い形状で、主にイヤーピースのみでイヤホンを支える形式が主流でした。

また当時としてはまだ珍しい、BAとDDが各1基ずつのハイブリッド型で、低域はドンドン、高域はシャリシャリと、とにかく派手で、複数のドライバに異なる帯域を担当させています感がありありと出ています。昨今の多ドラやハイブリッドでもつながりの良い音に慣らされている方にとっては、少々品の無い鳴り方と感じる方がほとんどだと思います。また、中域は派手な低域、高域に押されて目立たず、質自体もボーカルに多少のざらつきや歯擦音を感じることがありました。

今までに低価格帯のイヤホンしか使用してこなかった人にとっては、この低域、高域が強調され、解像感も感じやすい派手な音作りに今までにない魅力を感じる人も多かったのでは無いかと思います。

私も2021年末の大掃除に合わせて所有していたSuperDartsを捜索したのですが、外箱や付属品などは見つかったものの、本体についてはとうとう出てくることはありませんでした。

あれからしばらく年月が経ち色々なイヤホン、ヘッドホンを聞いてきましたが、その上で SuperDarts 再度聞いたら新しい発見もありそうで、ぜひ発掘したいところです。

□DITA : Dream XLS

www.e-earphone.jp

シングルダイナミックドライバの名機と呼ばれており、私が聞いてみたいと思った時には既に生産を終了しており中古でしか入手できない状態でした。運よく相場程度で状態の良い中古が手に入ったのですが、コネクタ部分にグラつきがあり、そのせいか時たま音切れも発生する状態でした。そのような状態だったので、あまり音質を確認することもできず返品と相成りました。

返品前の状態確認時に試聴していた感じですと、前評判ほどの音場の広さは感じられず少しがっかりした記憶がありますが、確かにクリアさや抜けの良さには秀でていた気がします。

帯域バランス的には低域はすっきりとして薄く空間に広がる感じで、どちらかというと中域や高域の方が目立つバランスだった記憶があります。

また、シングルダイナミックドライバらしく各帯域の繋がりや空間表現自体は非常に自然で、聞き心地自体はかなり良かった印象です。

正直十分に聞き込めておらず、さまざまな音源を聞くことで印象も変わりそうなので、機会があればまた買いなおしたいと考えています。

EMPIRE EARS : Legend EVO

www.e-earphone.jp

こちらも使用時間の短い状態の良い中古を購入しましたが、一部界隈で話題になった特定周波数帯域での左右の音量バランスの崩れが発生する個体で、購入前に音量バランスの崩れは無いとのことで購入しており、保証書なども廃棄済みで販売店やメーカーへの問い合わせが実際の購入者以外不可能な状態であったため、結果的に返品と相成りました。

状態確認の際と、販売店店頭で試聴した程度ですが、最も特長的なのは音場の中央付近に非常に深くに沈みこむ低域で、Legend Xほどの量感や空間的な広がりは無いものの、別の方向性で非常に主張の強い低域となっていました。

また、低域の量感や広がりが抑えられた分、中域、高域側の広がりや透明感が相対的に増しており、全体としてはよりバランス良く立体的な音場が形成される傾向がありました。

各音の分離感はLegend Xと比較しても向上しており、人によっては逆にまとまりの無さを感じる場合もありそうな印象でした。

件の左右音量バランスの崩れはLegend EVOにて初導入された骨伝導ドライバの影響のようで、メーカー側からこの件に関しては特別な案内など出ていないようなので、このまま仕様として片付けられてしまう可能性もありそうです。

Legend EVO は特に低域側でかなり特長的な鳴り方をする機種で、高域側にかなり特長のある Noble Audio KHAN と同様に合う音源、合わない音源での差が激しそうです。個人的には非常に気になっている機種で、左右音量バランスの崩れの問題が解決されたり、そのような問題が起こらない中古を見つけられることがあれば、もちろん価格次第にはなりますが、再度購入して手元に置いておきたいところです。

EMPIRE EARS : Legend X (Universal Fit)

www.e-earphone.jp

EMPIRE EARS の中でも最大のベストセラーと言っても良い人気機種だと思います。非常に厚みと広がりのある低域を特長としており、この低域のおかげでヘッドホンやスピーカーほどとはいかないまでも、非常に頭内定位感の少ないイヤホンらしからぬ広大な音場を感じることができます。中域に関しては音源によっては低域の量感に押され引っ込みがちになることもありますが、基本的にはクリアな鳴り方で、高域も量感は十分でなかなか鮮やかに鳴らす印象です。どちらかというと滑らかさよりは分離感を重視したような音像で、どっしりとした低域を下支えとしてその上で中域、高域のボーカルや楽器が踊るように楽曲を盛り上げてくれます。総じて非常に迫力や臨場感の演出に優れた機種であると言えると思います。

私は中古で購入して2週間弱ほど使用していましたが、特定周波数帯域で片側のチャンネルにだけノイズが発生することが確認され、結果的に返品となりました。音自体は非常に気に入っていたため非常に残念でした。

現在は同社の ODIN を所有しており、傾向としては Legend X と被る部分もあるため再度購入することは無いかもしれませんが、EMPIRE EARS の多ドライバハイブリッドの機種の完成度の高さを見せつけられた機種でした。

EMPIRE EARS : Valkyrie (Universal Fit)

www.e-earphone.jp

こちらもLegend Xに続く EMPIRE EARS のベストセラーモデルで、現在では後継機の Valkyrie MKII が販売されておりこのモデルは生産終了となっています。

音質傾向としてはドライな鳴り方が特長的で、高域は線が細めですがしっかりとした伸びがあり、低域も量感こそLegend Xなどには及ばないものの、弾力がありつつ、アタック感やスピード感を強く感じさせる気持ち良い鳴り方をします。中域は輪郭がはっきりとしたクリアな鳴り方ですが、艶やかさや響きなどには欠けるドライな鳴り方が目立ちます。

Valkyrieのもう一つの大きな特長として、DD、BA、EST を各帯域に一つずつ割り当てた 3ドライバ 3ウェイ という、昨今の高級帯のモデルとしてはかなりドライバ数を絞った構成をしており、そのおかげか全体域に渡って必要以上の音の厚みや密度感が抑えられた非常に抜けの良いスッキリとした音場表現をしていることが挙げられます。これにより、Legend Xとはまた違った感覚の広大な音場を感じることができます。

後継機のValkyrie MKIIは主に低域の強化がなされており、初代において低域の量感が足りないと感じていた方にはおススメできる可能性はありますが、Valkyrieの大きな特長であったクリアさやスピード感については感じづらくなっているため、必ずしも後継機が音質的に優れているという訳では無く、自分の好みに合わせて選ぶ必要があると思います。個人的には初代の Valkyrie の方が他のイヤホンには少ない独特な鳴り方をするため個性的で好印象でした。

私が初めて購入したEMPIRE EARSのイヤホンで、同時に Valkyrie で初めてESTを採用した高域の音を聞きました。私はどちらかというと高域が派手になる傾向のイヤホンが苦手なのですが、ESTを採用した Valkyrie の高域は線が細く伸びがありながらも繊細かつシルキーな印象で、私の苦手な刺さりがほとんど感じなかったため、一聴してESTの虜になりました。もちろんESTの鳴り方に違和感などを覚える方もいると思いますので、その点は注意が必要です。

かなり気に入っていた機種なのですが、多少使用頻度が落ちていたことと、イヤホンが増えすぎてきていたため多少なりとも数を減らしたいと思い、それなりの値段が付くうちに売却してしまいました。

 

第一回のレビューはここまでになります。今回のレビューに気になっている機種が含まれていなかった場合は、次回、次々回の記事をお待ちいただけたら幸いです。

Beat Audio Prima Donna MKII 8wire ~ケーブル割り当ての儀~

[レビュー] Beat Audio Prima Donna MKII 8wire ~ケーブル割り当ての儀~

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■製品仕様・特徴など

Beat Audio Prima Donna MKII 8wireは8年以上のロングセラーとなっていたPrima Donnaのバージョンアップモデルです。初代Prima Donnaからの変更点は以下になります。

□初代Prima Donnaからの変更点
  • 導体素材のアップデート
    • 初代Prima Donnaは銀にレアメタルを複合した合金素材の導体でしたが、MKIIになってさらにジルコニウムが複合された合金導体になっています。
    • 導体素材だけでなく構造にも変化があり、初代Prima Donnaでは40本の細線を巻いて一つの芯線としていたところを、Prima Donna MKIIではより細い7本の線材を巻き1つの素線を作り、更にそれを14本束ねることで1つの芯線を形成しています。
  • 被覆(外装シース)のアップデート
    • 外装シースのシリコンが5%増やされ、外観の透明感と耐久性の向上が図られています。
  • 各部パーツのアップデート
    • コネクタ、スプリッタ、プラグの金属パーツが完全新規造形のものに変更されています。

音質的には、高域特性と低音の質を大幅に向上、導体の内部構造も新しく変更することでサウンドステージを30%向上、と公式で説明されています。高域特性は計測できないことは無さそうですし、低音の質に関しても聴感上で判断できそうですが、サウンドステージをどのように定量化しているのかは気になるところです。結局のところ、初代Prima Donnaを聞いたことが無くなんとも言えないので、実際に自分の耳で聞いて判断する必要がありそうです。

■試聴環境

今回のレビューでは、主に Empire Ears ODIN と FAudio Project Y のどちらかに本製品を割り当てる目的で試聴を行います。そのため、Empire Ears ODIN、FAudio Project Y の純正付属ケーブルから本製品に変更した際の変化を中心にレビューしつつ、全体的な音質傾向を判断していきます。

試聴に用いたDAPDAC / AMP は以下の通りです。

DAP : Cayin N6ii(A02モジュール)

DAC / AMP : iFi Audio xDSD Gryphon

DAP - DAC / AMP 接続 : HUM Tara 4.4mm - 4.4mm バランスライン接続

■音質比較

EMPIRE EARS ODINとFAudio Project Yとマッチングした際に、純正付属ケーブルと比較してどのような音質傾向の変化が生じるかをまとめたものが以下になります。

□ODINとのマッチング
  • より抜けがよくなり、透明感が増す。音の密度感も低下してより空間を感じさせる方向へ変化。
  • 各音の輪郭もよりくっきりとし、アタック感が向上。
  • 包み込まれるような立体的な鳴り方の強化。
  • 音の粒子が細かくなったような、より繊細な描写。
  • 低域の量感は減少。沈み込みは変化無し。
  • 高域は多少派手な鳴り方に変化。伸び自体も向上し、刺さるギリギリくらいまで出る印象。
□Project Yとのマッチング
  • 全体的な帯域バランス、定位、解像感に大きな変化は無い印象。僅かに高域寄りへの重心の移動が感じられる程度。
  • 空間表現が全体的に向上し、より広がり、立体感、臨場感を感じる鳴り方に変化。
  • 音の質感に関しては、響き、余韻が多少増えた印象。各音の太さや密度感などは大きな変化は無い。
  • 元のバランスをあまり崩さずにスケールアップしたような鳴り方になり、録音の良いライブ音源などがより楽しく聞ける感じに変化。

■Beat Audio Prima Donna MKII 8wire の良い所 / 気になる所

Beat Audio Prima Donna MKII 8wire を購入・使用してみて気づいた良い所と気になる所をそれぞれ簡単にまとめます。

□良い所
  • クリアで見通しが良く広い音場
    • 本製品の特長の一つで、前モデルとの比較はできませんが確かに公式の説明通り、透明感のある広い音場を感じることができます。音場が広がるとぼやけた鳴り方になりがちですが、くっきりはっきりとした出音のまま空間が広がる感覚は今まであまり覚えたことなく新鮮でした。
  • 解像感、分離感が良く立体的で、線が細めの硬質な出音
    • こちらも音場同様、本製品のわかりやすい特長で、銀線らしい音質傾向ですが、低価格帯の銀線にありがちな音が痩せてしまうような感じではなく、ある程度力強さなどは維持されたまま全体が引き締まり、それが解像感や分離感の向上に繋がっているイメージです。
  • 高い品質と美しいデザイン
    • 各パーツやケーブル自体のビルドクオリティは高く、デザイン自体も今までのBeat Audio製品とは一線を画した美しさがあります。特に、各部金属パーツはオレンジと金色の中間くらいの色をしていますが、アクセント的に使用されることで、派手過ぎず上品な印象を保ったまま高級感を醸し出している印象です。
□気になる所
  • 太く重いケーブル
    • 8芯なので一般的な4芯ケーブルなどと比較して太く重いのは当たり前なのですが、8芯の中でも芯線1本の線径が太く、各部金属パーツも金属製で大きめなので、全体としてかなりの重厚感があります。手持ちの中だと、同社のSupernova MKII+ 8wire や Effect Audioの8wireのモデルと比較しても一回りほど太く、重量も明らかに重いです。ケーブルの柔らかさはあるため取り回し自体はそれほど悪くない印象です。
  • 角ばった金属パーツ
    • 金属パーツの出来そのものは非常に美しくデザイン的なアクセントになっていて良いのですが、いかんせんかなり角が多く、収納時にイヤホンに当たると傷ができてしまいそうなのと、パーツの角部分の塗装から剥げていってしまいそうなのが心配です。
  • 長い2pin
    • 2pinの長さが他社の製品と比較して明らかに長く、手持ちのほとんどのイヤホンでケーブルとイヤホン本体側の接続部分に隙間ができます。ここがしっかりとくっついていないと、ただでさえ横からの力に弱く曲がりやすい2pinが更に損傷を受ける可能性が高まりそうなので、他社製品と合わせるかたちでもう少し短くしてくれることを切に望みます。ちなみに、手持ちの同社のSupernova MKII+ 8wireでも同様の問題が発生していますが、旧モデルのSupernova MKIIではこれらよりもピンの長さが短めで(それでも他社製品よりはわずかに長い傾向)隙間問題が発生しにくいので、ぜひ仕様を戻していただきたいです。

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■まとめ

久しぶりの高額ケーブルの購入でしたが、ケーブル自体のキャラクターはハイエンドらしくなかなか個性があり、どんなイヤホンと合わせても順当に音質向上が可能、という感じでは無い印象です。(専用設計のケーブルなどが付いていて、ケーブルとのマッチングも考えて音質が調整されたモデルに関しては特に)

本製品についてはかなり音場を広げてくれるとの前評判があり、トゲトゲスプリッタと2.5mmプラグなのが気に入らないODINとペアにすることで、ODINの特長の一つである広い音場がより強化されると思い購入しました。実際のところ、音場は特に高域側で確かに広がったように感じたものの、各音を線が細く硬質に鳴らす傾向が強まり、ODINのもうひとつの魅力である、柔らかさやしなやかさを感じさせる太めの出音の傾向が失われてしまい、個人的にはいま一つ相性の悪さを感じました。

一方で、元から音の線が細く硬質でクールな鳴り方をするProject Yでは、元々持っていたモニター的な特長をある程度維持しながら、多少苦手としていた空間表現や臨場感の演出が向上し、純粋にスケールアップした感覚を得られて相性の良さを感じました。録音の良いライブ音源などもよりしっかりと空間の広がりを表現してくれるようになり、Project Yの万能性を高めてくれる結果となりました。

他にも手持ちのイヤホンと色々組み合わせて試してみましたが、やはり音の柔らかさ、濃密さ、エネルギッシュさなどを特長とするような、主にリスニング傾向のイヤホン群と合わせた場合には、その特長を潰してしまう印象で、あまり相性が良くない印象です。一方で、硬質な鳴りで解像感やクリアさを特長とするような、主にモニター傾向のイヤホン群と合わせた場合には、音場の拡大や立体的な鳴り方への変化など空間表現を向上させ、モニター傾向のイヤホンが苦手としがちな臨場感の演出をかなり強化してくれる印象です。

全体的に、音質に対して価格に見合う価値を感じられるかどうかは、組み合わせるイヤホンとの相性によるところがかなり大きいと感じました。つくり自体は非常にしっかりとしていて高級感があり、所有欲を満たしてくれます。

導体の材料や芯線の構造など、Effect Audio Leonidas IIと似ているところがあり、現在Leonidas II + Cleopatra 8wire を所有しているので、そのうち音質の比較などもできたらと思います。

iFi Audio xDSD Gryphon

[レビュー] iFi Audio xDSD Gryphon

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■製品仕様・特徴など

iFi Audioは低価格帯から高価格帯まで多数のDAC / AMP を製品ラインナップに持ち、特にZENシリーズが有名ですが、今回レビューする xDSD Gryphon は定価では8万強と、iFi Audioの中ではミドルクラスの価格帯に位置するポータブルDAC / AMPです。最大の特徴としては、同社はもちろんのこと、現行の他社製品を含めても類を見ないほどの多機能である点が挙げられると思います。

具体的な製品仕様については私が説明するよりも公式サイト見た方が分かりやすいので、

ifi-audio.jp

をご覧ください。

xDSD GryphonはポータブルDAC / AMPとしては圧倒的な入力I/Fの多さによる接続性の高さを誇っており、USBによるデジタル接続は基本として、Bluetoothに関してはレシーバーとして現行の高音質コーデックを全てサポートしており、更には背面の4.4mm、3.5mmの端子を使用して、ライン入出力まで可能となっています。イヤホン / ヘッドホン出力としては最近では高価格帯のDAPDAC / AMPではデファクトとなってきたバランス接続をサポートしており、端子が4.4mmなのも個人的には非常にポイントが高いです。

もともとCayin N6iiのA02モジュールを使用するために4.4mmでバランスのライン出力 / Pre出力を入力することができるAMPを探しており、Oriolus BA300Sのような製品もあるにはあったのですが、国内では中古でしかも古いバージョンのものしか手に入らないという状態でした(AliExpressでは新バージョンの新品が購入できるようですが、到着まで時間がかかる点や万が一初期不良があった際などに対応が厳しそうなので今回は避けました)。そのような状況の中、xDSD Gryphonは4.4mm端子によるバランスライン接続が可能なだけでなく、他でも前例が無いほど多数の機能がiFi Audioの集大成と言わんばかりに結集されていたため、下調べや試聴もそこらで思わず購入してしまいました。

製品仕様だけ見ると、「俺が考えた最強のポータブルDAC / AMP」を妥協することなく実現した製品に見えますが、実際のところは本当に最強のポータブルDAC / AMPになっているのか、実際に音を聞いて判断していこうと思います。

■試聴環境

今回のレビューでは今までのレビューと異なり、普段レビューの際に使用しているDAP単体の構成や、xDSD Gryphonやその他機材を使用したいくつかの構成で音質を比較します。

全ての構成において、試聴に使用するイヤホンは、HUM Dolores Universal Fit (final Type E イヤーピース装着) で、ケーブルは HUM CX1(絹巻初期Ver.) 2pin - 4.4mm 5極プラグ を使用します。

試聴音源は全てAmazon Musicの最高音質(HD / Ultra HD)になります。

また、xDSD Gryphonには音質調整のための設定がいくつか存在しますが、特別な記載が無い限りはそれぞれ以下のような設定としています。

・デジタルフィルタ : スタンダード

・iEMatch : 無効

・XBase II / XSpace : 無効

・Base / Presence 補正 : Presence

 

以下が今回試聴を行った機材構成になります。

□構成0 : DAP単体

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

□構成1 : xDSD Gryphon [USBデジタル接続]

・ソース : Cayin N6ii (A02モジュール)

・接続 : 純正付属ケーブル USB Type C - USB Type C デジタル接続

DAC / AMP : xDSD Gryphon

□構成2 : xDSD Gryphon [4.4mm バランスライン接続]

・ソース : Cayin N6ii (A02モジュール)

・接続 : HUM Tara 4.4 mm - 4.4 mm バランスライン接続

DAC / AMP : xDSD Gryphon

□構成3 : xDSD Gryphon [Bluetooth(LDAC)接続]

・ソース : Cayin N6ii (A02モジュール)

・接続 : Bluetooth(LDAC)

DAC / AMP : xDSD Gryphon

□構成4 : xDSD Gryphon [BluetoothAAC)接続]

・ソース : iPhone 11 Pro

・接続 : BluetoothAAC

DAC / AMP : xDSD Gryphon

□構成5 : Acoustune AS2000 Lightning Adapter [Lightning - 4.4mm アダプター接続]

・ソース : iPhone 11 Pro

・接続 : Acoustune AS2000 Lightning Adapter(Lightning - 4.4mm)

DAC / AMP : Acoustune AS2000 Lightning Adapter

■音質比較

□構成1 : xDSD Gryphon [USBデジタル接続]

xDSD Gryphonとの接続ではひとつの基準となる接続ですが、DAP単体の場合と比較すると一番大きな違いと感じたのが空間の広がり感と立体感です。DAP単体だと比較的耳のすぐ外側で鳴っていたような音が、全体的にもう少し遠くに配置され、より広い空間の中で立体的になっているように聞こえます。また、各音に多少響きのようなもの付与され、より艶っぽい鳴り方をする印象です。

一方で、各音の定位感や詳細な描写、ボーカルや楽器の生々しさ / 実在感についてはDAP単体の方がわずかに優れている印象です。

帯域バランス的にはDAP単体、xDSD Gryphonともに特別強調されるような帯域は無くフラットに近く、両者を比較しても各音域の量感に大きな差はありませんが、DAP単体の方が全体的に硬質でパキッとしたアタック感の強い鳴り方で、xDSD Gryphonでは低域はより弾力があり、中域は艶やかで、高域はもう少ししなやかに聞こえます。

まとめると、DAP単体の方はどちらかというとモニター寄りの傾向の鳴りで、xDSD Gryphonの方はより音楽的でリスニング寄りな鳴り方という差異がありました。

個人的にはどちらの音色も甲乙つけがたいですが、イヤホンのレビューをする際などで集中して音楽を聞く際にはDAP単体で、普段使いで楽しく音楽を聞くならxDSD Gryphonの方を使いたいという気持ちにさせられました。

□構成2 : xDSD Gryphon [4.4mm バランスライン接続]

一聴して違いを感じたポイントは帯域バランスで、低域~中域までが高域と比べると目立つピラミッドバランスの音質傾向になっています。

全体的には今回試聴した構成の中でも最も滑らかで柔らかさや温かみを感じさせる音色です。高域は多少控えめで目立ちづらく鮮やかさや華やかさには欠けるかもしれませんが、低域の沈み込みは深く、中域は太めで密度感があり、個人的には非常に気持ちの良い鳴り方をしていると感じます。音場自体もDAP単体の場合と比較して多少拡張されており、太めで密度感のある音を出していても窮屈さは感じさせない絶妙なバランスです。

また、空間表現として特徴的な点としては、特に奥行(前後)方向の立体感に優れている点が挙げられ、目の前で演奏している音を聞いている感覚というものを感じやすいです。

Cayin N6iiのA02モジュールでは使用しているDACチップがA01モジュールと同じAK 4497EQなこともあり、A01の音質傾向を維持したまま全体的にレベルアップさせたような印象の音に感じました。

今回試聴した構成の中では個人的な好みと最も合致した音質傾向ですが、DAPと xDSD Gryphon を有線接続しなくてはいけないという取り回しの悪さがあるため、家の中でリラックスしながら音楽に没頭したい時などに特に使いたいという印象です。

□構成3 : xDSD Gryphon [Bluetooth(LDAC)接続]

構成1のUSBデジタル接続した場合とほとんど遜色の無い音を聞かせてくれます。わずかに高域の伸びや響きが減少するような気もするのですが、ブラインドテストをしたら聞き分けられない自信があります。

気になる点をあえて挙げるとしたら、Bluetooth接続をしている場合にはバックグラウンドノイズがUSBデジタル接続の場合と比べてわずかに増えるということと、これはDAPBluetoothの電波強度が弱いせいかもしれませんが、たまに音切れをしてしまうという点くらいです(DAPとxDSD Gryphonがそれほど離れていなければ音切れの頻度はかなり下がります)。

やはりDAPとxDSD Gryphonの間のケーブルが無くなるだけでも取り回しや利便性はかなり向上するので、デジタル接続する場合はBluetoothで運用するケースが多くなりそうです。

□構成4 : xDSD Gryphon [BluetoothAAC)接続]

この接続では、構成1のUSBデジタル接続や、構成3のBluetooth(LDAC)接続の場合と比較して、それなりの音質の劣化を感じます。一番顕著に違いが出たのがやはり高域で、構成1や3であったしなやかで伸びが感じられた鳴りが、多少すんづまってバシャバシャとした鳴りになってしまいます。また、魅力であった空間の広さや立体感も控えめになり、全体的に耳の近くで平面的に鳴るようになった印象です。

一方で、音が近く平面的になったことで密度感や勢いは感じやすくなっている気がするので、ロックやポップスを聞く上ではそこまで問題となる音質の劣化では無いとも感じました。

個人的には、腰を据えて音楽を聞くぞという時にはあと一歩物足りなさを感じそうですが、ポータブル用途や作業中に聞き流すような用途としては十分な高音質だと思いました。

□構成5 : Acoustune AS2000 Lightning Adapter [Lightning - 4.4mm アダプター接続]

xDSD Gryphonは全く関係が無いので番外編な感じになってしまいますが、xDSD Gryphonを使用することでどれだけの音質向上が得られるかということを考える上では重要だと思い試聴してみました。4.4mmで接続していますが、iOSの仕様上バランス駆動にはならないようです。

一聴して気になるのが空間の狭さで、他の構成と比較するとかなり頭内定位感を感じる平面的な鳴り方です。また、帯域バランスとしては低域~中域はそこまで悪くないのですが、高域がかなり出にくい印象です。構成4のすんづまってバシャバシャとなっている感じとはまた違って、単純に量が少なく感じます。

常に持ち歩いてるiPhoneとアダプターさえあれば音楽が聞けるので非常に手軽ですし、音が明らかに歪んだりしているなどの感じはしないので十分楽しく聞ける範囲ではありますが、せっかく音楽を聞ける時間があるならばもう少し良い音で聞きたいなぁという本音が漏れてしまいそうになります。

また、iPhoneに音楽再生のみをさせていれば良いのですが、ブラウジングなど他の操作をしていると、それほど頻度は高くないものの、操作するタイミングに合わせて音が切れたり飛んだりノイズが乗ったりという現象には遭遇しました。

個人的にはこの構成で音楽を聞くことは、できる限り荷物を減らして身軽な状態で出かけたい時以外はほぼ無いのではないかと思いました。ただでさえ気になるスマホの電池持ちが更に悪くなるのも精神衛生上よろしくありません。

■製品独自機能の音質への影響

xDSD Gryphonでは製品独自の音質調整機能として、iEMatch、XBase II / XSpace、Base / Presence 補正、デジタルフィルタを備えています。

□iEMatch

本体底部の切り替えスイッチで、有効(3.5mm出力)/ 有効(4.4mm出力)/ 無効 の3通りから選択することができます。

感度の高いイヤホンなどで発生する、アンプ由来のサーというバックグラウンドノイズ(ヒスノイズ)を抑えるための機能で、有効にすると一聴して音量が下がることが確認できます。個人的には無効の状態で気になるほどのヒスノイズを感じることが無かったため、あまり有効にする恩恵を感じられませんでした。有効にした際には内部的には余分な回路を通ることになるため、それによる音質劣化の可能性が考えられる他、音量が下がった分を取り戻そうとしてボリュームを上げるとそれだけ消費電力が増加して電池持ちが悪くなったり、アンプへ過大な負荷がかかる場合もあるので、よほどヒスノイズに悩まされている場合以外は有効にする必要はないのでは無いかと思います。

□XBase II / XSpace

本体フロントパネルの切り替え用ボタンを押すことで、無効 / XBase II / XSpace / XBase II + XSpace の順に4通りから選択することができます。これは切り替えた際に非常に分かりやすく音質が変化します。

XBase IIを有効にすると主に中低域~低域にかけての強調と、それらと比較すると控えめなレベルですが中域に関しても強調され、全体としては重心が低域側に移り安定感のある聞こえ方をするようになります。

一方で、XSpaceを有効にすると中高域~高域が強調され鮮明に聞こえるようになるとともに、抜けが良い空間的な広がりやクリアさをより感じられるようになります。

両者を有効にすると、相対的には中域以外の帯域が持ち上がるため、中域は多少引っ込んだような聞こえ方をするようになります。これはいわゆるラウドネスのような効果があり、無効時と比較して音量を絞った状態でもより鮮明な聞こえ方をするようになります。音源によってはドンシャリでうるさい鳴り方になるケースもあり、XBase II / XSpace の両者を有効にする場合には、あわせて多少の音量調整が必要になるケースも多そうな印象です。

XBase II / XSpaceはデジタル信号処理では無く純粋なアナログ信号処理で実現しているようで、有効にした際には聴感上でも特に違和感を感じることなく自然な出音に聞こえ、音質を損なうことなく帯域バランスや空間表現の調整してくれているように感じます。

□Base / Presence 補正

本体リアパネルの切り替えスイッチで、Presence / Base / Base + Presence の3通りから選択することができます。

この補正機能はマニュアルの記述を見たりスイッチを切り替えながら試聴した感じでは、XBase IIが有効になっていないと効果が無いようです。こちらも XBase II / XSpace を切り替えた際と同程度の比較的大き目の変化を感じることができます。

Presence補正はマニュアルでは主に中高域をブーストするとのことで、中域~高域にかけてブーストされるのか、中高域の帯域のみブーストされるのか判断がつきづらいのですが、Base補正のみ有効な場合と比較すると、聴感上ではボーカルも含めて強調されて前に出てきて、金物の鳴りも鮮明になるため、中域~高域にかけてブーストされているのではないかと思います。Base補正のみ有効な場合をPresence補正のみ有効な場合と比較すると、暗くて少しくぐもったような深い鳴り方に特徴があります。一方で中域~高域が抑えられた分音量を上げやすく、聴感上の音量をそろえた場合には低域の迫力を非常に感じやすくなりますし、くぐもっている感じもほぼなくなります。Presence補正とBase補正を同時に有効にすると、全帯域に渡って濃密な印象の出音になりますが、空間が音で埋め尽くされがちな傾向もあるため、好き嫌いが分かれそうです。

個人的にはPresence補正のみ有効な場合が最もバランス良く、スッキリとした明るい音色に聞こえます。

□デジタルフィルタ

XBase II / XSpace 切り替え用ボタンを長押しすることで入れるメニュー設定から、ビットパーフェクト / スタンダード / GTO(Gibbs Transient Optimised)の3通りから選択することができます。

・ビットパーフェクト : デジタルフィルタ無し

・スタンダード : 適度なフィルタリング、適度なプリ、ポストリンギング

GTO : 384/352kHzにアップサンプリング、ミニマムフィルタリング、ノープリリンギング、ミニマムポストリンギング

のような設定になっているようです。

肝心の音質ですが、XBase II / XSpace や Base / Presence 補正 を切り替えた時ほどの変化を感じず、各フィルタ設定の音質に与える影響を把握した上で、音源についてもある程度選んで注意深く聞き比べないとわからない程度の違いに収まっていると思います。ですので、フィルタがかかっていること自体が精神衛生上気持ち悪いという人はビットパーフェクトを選べば良いですし、高音質化を目指して厳密に設計・調整された最新のフィルタを楽しみたければGTOを選べば良いですし、特に何も気にせずスタンダードのままでも全然良いと思います。

他の音質調整項目と比較すると、一度決めたらそう設定しなおすことは無いのかなと思います。

■xDSD Gryphonの良い所 / 気になる所

xDSD Gryphonの良い所と気になる所をそれぞれ簡単にまとめます。

□良い所

・非常に柔軟な接続性。

- ポータブルDAC / アンプとしては入出力のオーディオインターフェースが充実していて、他の機器との接続で困ることはまずないと思われます。

・基本性能が高く調整も可能な音質。

- ポータブル用途としてだけでなく、据え置きとして使用するにしても十分満足できる基本性能の高い音質を実現しつつ、独自技術であるXBase II / XSpaceでの音質調整も可能で非常に懐の深さを感じます。

・十分な電池持ち。

- 製品仕様にある通りの、一日外に持ち出して音楽を聞くのに十分な連続駆動時間を実現しており、バッテリーが劣化してしまわない限りは電池持ちが悪くて困るという事態は発生しないのではないかと考えられます。

・良好なビルドクオリティ。

- 後述する一部の点を除き、筐体は全面に渡って滑らかに加工された金属で仕上げられており、非常にビルドクオリティの高さや高級感を感じさせる仕上がりになっていると思います。

□気になる所

・4.4mmジャックの出来がイマイチ。

- 使用しているパーツの品質があまり良くないのか、4.4mmジャックに関しては挿しこむ際の感触が滑らかとは言い難く、たまにガリガリとこすれるような感触や音が発生することがあり、プラグ側、ジャック側、ともに傷んでしまわないかが心配になります。

・XBase II の有効 / 無効を示すLEDインジケータのラベルがXBase+となっていること。

- 公式ページなどの製品画像(恐らくCGモデル)だと、XBase II の有効 / 無効を示すLEDインジケータのラベルはXBase IIとなっているのですが、実際に本体に印字されているラベルではXBase+となっています。マニュアル中でもこのあたりの記載がブレブレで、少し惜しさを感じます。

■最後に

xDSD Gryphonを買ってどうだったかと聞かれれば、間違いなく非常に満足していると答えますし、ポータブルDAC / AMPを探している人に対しては、値段さえ許容できれば非常におススメでき、コスパも高い製品だと感じています。

また、2022/01/19現在であれば、1月末までのケーブルプレゼントキャンペーンで定価1万円以上の 4.4mm - 4.4mm ミニミニケーブル か 4.4mm - XLR ケーブル を無料で貰えるため、非常にお得になっています。

この記事を読んでxDSD Gryphonが気になってしまったそこの画面の前のあなた、買うなら今しかないですよ!

 

くっつく缶ケースを使ったイヤホン収納壁の作成

[Tips] くっつく缶ケースを使ったイヤホン収納壁の作成

自分のツイートの中ではかなり多めに「いいね」をもらえた、ダイソーの「くっつく缶ケース」を使ったイヤホンの収納についてブログでもまとめておきます。

■この収納法のメリット / デメリット

□メリット
  • 飾っていて映える。コレクション欲が満たされる。
  • 聞きたいイヤホンがすぐに取り出せる。
  • 缶ケースのまま外に持ち出せる。
  • ダイソーで売っている商品のみで比較的低コストで作れる。
  • (よほど精度を求めたり綺麗に作ろうとしない限りは)簡単に作れる。
□デメリット
  • 収納できるイヤホン数の割に面積を取る。
  • 筐体が大き目(特に厚み方向について)のイヤホンの場合、缶ケースがしっかりと閉まらず収納できない場合がある。

■素材・道具

素材は2022/01/17現在、全てダイソーで調達可能となっています(店舗によっては置いていない可能性もありますのでご注意ください)。

□収納壁側素材
  • コルクボード片面(300円)× 1
  • マグネット補助プレート 2枚セット(100円)× 6
  • 瞬間接着剤(100円)× 1 ※木材を接着可能なもの

計 : 1000円

□イヤホンケース側素材
  • くっつく缶ケース(100円)× 12
  • フェルト(100円)× 1 ※缶ケースの底に敷く必要が無い場合は不要
  • 除湿シート(100円)× 1 ※12ピース1セットではないものもあるので注意、除湿する必要が無い場合は不要

計 : 1400円

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合計 : 2400円

□道具
  • 油性ペン
  • ガムテープ
  • 定規 または メジャー
  • 細い紐 ※以下の作成では用意していなかったため使用していませんが、使用した方が簡単に作成できます。

■作成手順

1. マグネット補助プレート貼り付け位置決め

マグネット補助プレートのコルクボードへの貼り付け位置を決定していきます。コルクボードの枠にガムテープを貼り付けて、油性ペンで目印を入れていきます。計算することで均等な貼り付け位置を割り出すこともできますが、私はおおよその感覚で枠の外側から測って以下の位置に目印を入れています。

  • 縦(長さ 60cm): 10.0cm, 23.5cm, 36.5cm, 50cm
  • 横(長さ 40cm): 8.5cm, 20.0cm, 31.5cm

f:id:AruponnDX:20220117092846j:image

2. マグネット補助プレートの貼り付け位置への仮配置

1でつけた目印を元にマグネット補助プレートをコルクボード上の実際の貼り付け位置に仮配置していきます。仮配置する際にマグネット補助プレートの裏面の両面テープのフィルム部分を剥がし接着できるようにしておくと、後の工程で貼り付け位置をマーキングする際にズレづらくなるので作業が簡単になります。

※両面テープはコルクボードによほど強く押し付けない限りは簡単に剥がすことができます。そのため、実際に張り付ける際には瞬間接着剤での接着が必要となります。

また、1でつけた目印位置を直線で結ぶように縦横に交差するように紐を張っておくと、紐の交点部分が貼り付け位置の中心となるため、コルクボード上へのマグネット補助プレートの仮配置が非常に簡単になると思います。

※私は作成時に紐を用意していなかったため、添付している写真では紐は利用していません。

仮配置後はズレが無いか全体を見て確認しましょう。

f:id:AruponnDX:20220117092849j:image

3. マグネット補助プレート貼り付け位置のマーキング

コルクボード上に仮配置したマグネット補助ボードが動かないように押さえながら貼り付け位置を油性ペンでマーキングします。マーキングのやり方は貼り付け位置を特定できるようになっていればどのようにするかは自由ですが、私は四隅をマーキングしています。

※貼り付け位置中央付近に黒い点のマーキングがあり、これはマグネット補助プレートを仮配置する前に目印にしようと思って入れたものですが、ほとんど役に立ちませんでした。この中心位置のマーキングを入れるくらいなら、前述したように枠に紐を張って、紐の交点とその下に潜り込ませたマグネット補助プレートの中心位置を重ねるようにして仮配置していくのをおススメします。f:id:AruponnDX:20220117092855j:image


4. マグネット補助プレートのコルクボードへの貼り付け

3で入れた貼り付け位置のマーキングを参考にして、瞬間接着剤でマグネット補助プレートをコルクボード上に張り付けていきます。この際に以下の2点を注意してください。

  1. 仮配置時にマグネット補助プレート裏面の両面テープのフィルムを剥がしていない場合は、忘れずに剥がしてから瞬間接着剤で張り付けること。

  2. 1か所の貼り付けに瞬間接着剤を使いすぎないこと。はみ出して汚くなるだけでなく、瞬間接着剤の量がギリギリのため、12枚張り付ける前に瞬間接着剤が切れてしまう可能性があります。

張り付け後、瞬間接着剤がしっかり乾燥するのを待てば収納壁側は完成です。

5. 缶ケース内に敷く布(フェルト)の切り出し

※この手順は缶ケース内に布(フェルト)を敷く必要ない方は不要です。

紙に缶ケースをあて、油性ペンで周囲をなぞって型取りをします。

※缶ケースの底の半径を測ってコンパスで円を描いてもOKです。

型取りができたら紙から切り出して型紙にします。ガムテープを輪っか状にして、出来上がった型紙とフェルトを貼り付け、型紙に沿ってフェルトを円状に切り出します。

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6. 吸湿剤とフェルトの配置

除湿シートから吸湿剤部分切り出し缶ケースの底に配置し、その上に5で切り出したフェルトをかぶせます。

※除湿不要の方はフェルトのみ配置してください。また、吸湿剤が直接イヤホンなどに触れるのを避けるためフェルトの下に配置していまが、そのあたりは好みで調整してください。

これでイヤホンケース側も完成です。
f:id:AruponnDX:20220117092900j:image
f:id:AruponnDX:20220117092844j:image

7. 設置

収納壁を好きなように設置・固定し、イヤホンケースを底のマグネット部分で張り付けてください。f:id:AruponnDX:20220117092841j:image

以上でくっつく缶ケースを使ったイヤホン収納壁の作成は完了です。

おつかれさまでした。

FAudio ダイナミックドライバ 4兄弟 聞き比べ

[比較簡易レビュー] FAudio ダイナミックドライバ 4兄弟 聞き比べ

f:id:AruponnDX:20220116090225j:image

みんな大好きFAudioのダイナミックドライバ 4兄弟、Dark Sky、Major、Minor、Passionを聞き比べて簡単に比較してみたいと思います。ぱっと見、色が違うだけのカラバリ製品に見えますが、価格的には4万円程度~14万円程度とかなり開きがあります。はたして価格分の音質差が存在するのか、非常に気になるところです。

■製品仕様・特徴など

筐体形状や採用独自技術(トリプル・アコースティックチャンバー構造)など共通の仕様もありますが、ここでは主に違いのあるポイントをご紹介します。

□ドライバ構成

全てシングルダイナミックドライバの機種ですが、振動版の構造、素材、大きさに違いがあります。

  • Dark Sky : 10.2mm ダブルレイヤー(ファイバーダイヤフラム + D.L.C ダイヤフラム)振動板
  • Major : 10.5mm ダブルレイヤー (ファイバーダイヤフラム + チタニウムダイヤフラム)振動版
  • Minor : 10mm ベリリウムコーテッド・メディカルファイバー振動版
  • Passion : 9mm メディカル・ファイバー振動版

価格が高いほど複雑な構造かつ大きな振動版を採用している傾向が見て取れます。

□ケーブル

Dark Sky、Majorは専用設計の高品質なケーブルが付属します。Minor、Passionの付属ケーブルは皮膜の色は異なりますが、線材としては同じものが使われているようです。

  • Dark Sky : S.S.S. Earphone Cable(銀合金、純銀導体、金メッキ銀合金導体)
  • Major : Black Sprite Cable(軍需用高純度銅導体)
  • Minor : Sliver Plated Litz Cable(銀メッキ銅導体)
  • Passion : Black Jacket Sliver Plated Litz Cable(銀メッキ銅導体)

今回の試聴に際しては、4.4mmバランス接続に環境を揃えるため、それぞれケーブルを変更して試聴しています。

□音導管素材

イヤーピースをはめるノズル部分の素材がMajorのみ異なります。

  • Dark Sky : ステンレス
  • Major : 無酸素銅
  • Minor : ステンレス
  • Passion : ステンレス

筐体や音導管部分にアルミ、ステンレス、真鍮などを用いているイヤホンは比較的良く見ますが、無酸素銅はなかなか珍しい素材なのでは無いかと思います。比重が大きく、素材特有の音鳴りを防ぐことで、低歪で原音に近いサウンドを実現することを目指しているようです。

■試聴環境

□共通

DAP + HPA : Cayin N6ii (A02モジュール) - LINE (4.4mm5極バランス) - iFi audio xDSD Gryphon

□Dark Sky

・接続 : FAudio S.S.S. Earphone Cable (純正付属) 2pin - 4.4mm5極バランス (変換アダプタ使用)

・イヤーピース : FA Instrument+

□Major

・接続 : FAudio Black Sprite Cable 8 wired (純正付属の8芯版) 2pin - 4.4mm5極バランス

・イヤーピース : FA Instrument+

□Minor

・接続 : Beat Audio Supernova MKII+ 2pin - 4.4mm5極バランス

・イヤーピース : FA Instrument+

□Passion

・接続 : Effect Audio AresII+ 2pin - 4.4mm5極バランス

・イヤーピース : FA Instrument

Dark Skyのみ純正付属ケーブルを使用していますが、それ以外については他社製のケーブルなどに変更しています。また、PassionのみイヤーピースがFA Instrumentと旧バージョンのものになります。

■各機種の特徴、比較

今回は数が多いので、いつものまとめ方と異なりそれぞれの機種の特徴をまとめる形式とさせていただきます。

□共通
  • ダイナミックドライバ1発構成らしい、滑らかで自然な出音。
  • 全体的に押し出しが強めで、主にロック、パンクのような勢いが重要となるジャンルを聞くのに適した音質傾向。
  • 平均から広め程度の音場。
  • 耳への収まりが良い、小さく軽くまとまった筐体構造。
  • 耳にあまり押し込まず浅めに装着するタイプのため、イヤーピースへの依存が大きい装着感。
  • 密閉型イヤホンとしては平均から少し悪い程度の音漏れ耐性と遮音性(ポータブル用途では音量を上げすぎなければ使用可能)。
□Dark Sky

全体的に太めで密度感のある力強い音が特徴的です。特に中低域~中高域までのミッドレンジを中心とした範囲が強く押し出されていて、ボーカルも近くとてもエネルギッシュで迫力を感じられます。低域、高域に関しては、質、量ともに申し分ないですが、ミッドレンジが張り出しがちのため、相対的に引っ込んで聞こえる(特に高域に関して)可能性があります。また、サブベース帯域が適度に抑えられている影響からか、ベースラインやドラムのキック、スネアが明瞭に聞こえるため、リズム隊のグルーヴ感を感じやすい音作りになっている印象を受けます。

□Major

広めの音場とサブベースまで良く沈み込む低域、比較的すっきりとして解像感のある中域、しっかりと存在感のある高域と、全体的にワイドレンジでダイナミックな臨場感を感じさせる鳴り方が特徴的です。一般的には低音がすごい機種として有名で、その評判に違わずサブベース帯域の量感が多めで重心が低く感じますが、中低域~中域にかけては意外とスッキリしていて、ボーカルの周りには適度なスペースができ、そこだけ聴くと意外と繊細で空間的な鳴り方に感じます。

□Minor

4機種の中だと最もバランス良く整えられている印象です。Dark SkyやMajorと比べるとすっきりとしてクリアで(それでも平均からするとやや濃いめ)、各音の詳細な描写などの解像感が強調されている印象を受けますが、迫力、臨場感、スケール感の表現では一歩及ばないところがあります。また、音の押し出し自体はDark Skyほど強くはありませんが、輪郭がより強調されてアタック感は少々強めに感じる傾向にあります。

□Passion

他の3機種と比べると、Dark Skyほどのエネルギッシュさは無く、Majorのような圧倒的なサブベースやワイドレンジさも無く、Minorほどの詳細な描写や解像感も感じさせず、各機種の得意分野で比較すると分が悪い印象ですが、ある意味では変なクセが無いと捉えることもできるレベルに収まっています。音色に破綻するところが無く自然でまとまりがあり、ダイナミックドライバ1発と聞いてイメージする慣れ親しんだ音(多少各音の鳴らし方に雑さがある点も含めて)に最も近い印象です。また、中古で2万円以下で購入できることを考慮すると非常にコスパが良く、FAudioの入門機としてもおススメできます。

■その他、備考

個人的に最も良く聞く音楽ジャンルが邦楽のロックで、それとFAudioのダイナミックドライバの機種は非常に相性が良いと思っており、結果的に現行の全機種を揃えるに至りました。ここ数年は長らくフルBA多ドラやハイブリッドのイヤホンを聞いてばかりでしたが、final A8000、糸竹管弦とあわせて、改めてダイナミックドライバ1発の良さを再認識させられた機種群になります。個人的な好みとしては、Dark SkyとMajorが音源そのものや音源をどのように楽しみたいかの気分によって順位が入れ替わる感じの同率1位で、Minor、Passionと続く感じになります。

今回は4機種の比較ということで、各機種の詳細なスコア付けなどは省きましたが、時間が取れれば普段のような詳細なレビューについても書きたいと思います。

Shure SE846

[レビュー] Shure SE846

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■製品仕様・特徴など

ドライバ構成自体はツイータ×1、ミッドレンジ×1、ウーファ×2の 4ドライバ 3ウェイ という比較的良く見る構成ですが、SE846が革新的だったのは低域部のチューニングに複数枚の金属板で構成された複雑なアコースティックローパスフィルターを使用していることです。搭載するドライバ数も4機と欲張っていないため、筐体自体もかなり小型です。

また、もう一点SE846が革新的だったのは、ノズル部に交換可能な音質調整用フィルタを採用していることです。ブライト、バランス、ウォームの三種類のフィルタが付属しており、バランスフィルタを基準に1kHz ~ 8 kHz の帯域を上下させるようになっているようです。ノズルを取り換えることで特に帯域バランスはかなり大きく変わる印象なので、好みの音質傾向や良く聴く音楽のジャンルなどにマッチするものを選ぶことが重要となります。

当時の風潮からするとなかなか個性的なスペックを持ち、今までできなかったことをやってやろうというハイエンドらしい挑戦を感じますが、最も重要な音質についてはその挑戦に見合うものを実現できているのか非常に興味深いです。

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 : ALO Audio Gold 16 IEM Cable MMCX - 4.4mm5極バランス

・イヤーピース : 純正付属シリコンイヤーピース

・ノズル部 音質調整用フィルタ : バランスタイプ

■サマリー

・[モニター] - 〇 - - - [リスニング]

・帯域バランス : 中域 >= 低域 > 高域

・音場 : [広] - - - 〇 - [狭]

・定位 : [正確] - 〇 - - - [曖昧]

・解像度 : [良] - 〇 - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] 〇 - - - - [悪]

・装着感 : [良] 〇 - - - - [悪]

■全体的な音質傾向

一言で言うと、決して耳障りな音を出さないよう丁寧にチューニングされ、特に低域、中域において音源の細部まで詳細に描き出す高い基本性能を持った名機です。

各音のエッジ、粒立ち感はBA型らしく適度な強調がされており、キレの良さを感じます。

低域、中域に関してはBA型にしては太い密度感のある音を鳴らします。

音の響き、余韻の表現は控えめで、クッキリ、ハッキリと各音の分離感を重視して鳴らすタイプです。

全体的に派手な音作りとは無縁で、ハイエンド機ならではの個性を求める場合には肩透かしを受ける印象もありますが、良く聴きこんでいくと、特に低域、中域に関しては歪みやざらつき、変な強調の無い上質な鳴り方をしていて、分離感やディテールの詳細な描写力についても良いものを持っていることが伝わってきます。

かなりモニター寄りで破綻の無い真面目な鳴り方には感じますが、帯域バランスはフラットというよりも低域、中域が厚めで高域は目立ちにくい傾向にあり、結果として音量も上げやすく、迫力や力強さを表現することは得意な印象です。

■帯域バランス

中域 >= 低域 > 高域

帯域バランス的には中域、特にボーカルが目立ち非常に聞きやすく、それと同程度かわずかに控えめな量感で沈み込みが良く制動が効き、輪郭のしっかりした低域の楽器群が鳴っています。

高域については量が控えめで伸びも良くないため、中域の後ろに追いやられがちであまり目立ちません。曇りを感じるレベルではないですが、高域好きの人にはかなり物足りない鳴り方だと思います。

上記はノズル部の音質調整フィルタにバランスタイプのものを使用した時の帯域バランスです。ここからブライトフィルタに変更すると、高域の量が増え多少聞き取りやすくなりますが、伸び自体はあまり変わらない印象です。また、低域、中域の厚みが多少抑えられ、よりクリアな印象の音に変化します。一方で、上質な低域、中域を中心としたSE846らしい音作りからは離れてしまいます。

ウォームフィルタに変更すると、高域自体はあまり減衰する印象は無く、むしろ低域の量感の増加や、各音が多少柔らかくエッジが取れたような音に変化するのを感じました。バランスフィルタ同様高域は控えめですが、それを補って余りあるメリットとして、低域が盛り上がることでより迫力や臨場感が増し、ボーカルもより生々しく聞こえるようになる印象です。

■音場・定位・解像度

音場はイヤホンの平均からすると狭めで、全ての音が頭の中心付近に集まりがちな聞こえ方になり、頭内定位を強めに感じます。

定位感はかなり良いです。響きや余韻が少なく、音像自体が滲まずクッキリとしており、音が出ていると感じる位置がブレることも少ないです。

解像度については、よくよく聞いてみると分離感、詳細なディテールの描写については十分優れているものの、音場が狭めなことや、低域、中域は密度感のある太めの傾向のため、一聴では目立たない傾向にあります。

■音漏れ・遮音性

イヤホン本体にベントが無く、耳にもしっかり収まり密着するため、密閉型のイヤホンとしては最高レベルの音漏れ耐性と遮音性を持っていると感じます。

ノズル部分を塞ぐ(耳に装着した状態を再現する)と、よほどの大音量で鳴らすか本体にかなり耳を近づけない限りは音漏れを感じません。

騒音化での移動(電車など)を伴うポータブル用途でも非常に快適に利用可能なレベルです。

■装着感

筐体内にはドライバとネットワーク回路、アコースティックローパスフィルタがみっちりと詰め込まれており、多ドライバモデルにも関わらず非常に小型です。

重量は樹脂製のため軽く、耳に当たる面も滑らかに整えられており、その小型さから耳のくぼみにしっかりと収まり非常に安定感が高いです。

ステム部がShureの他モデルと同様に細く、使用できるイヤーピースはかなり制限されます。ステムに取り付けることで、より軸径の太いイヤーピースを装着可能にするアクセサリもあったりするので(finalの Type Eイヤーピースのセットにもついてきた気がします)、お気に入りのイヤーピースがあるがステムが細すぎて使えない時などは使用を検討するのが良いかと思います。

イヤーピースの選定に多少難しさがある可能性がありますが、総じてカナル型のイヤホンとしては最上級の装着感だと感じます。

■その他、備考

私が初めて購入した定価10万円越えのフラッグシップイヤホンで、当時はこの価格でハイエンドと言われていた気がします。現在のフラッグシップモデルの多くは20万円弱~30万円越えの価格帯と、今はだいぶハイエンドの価格帯が押し上げられてしまいましたね。。。SE846は2013年8月に発売され、付属品などのマイナーチェンジはあったものの、今なおも販売され続けるロングセラーモデルです。近年のハイエンド機はそもそも最初から限定生産のみであったり、通常モデルであっても販売開始から販売終了まで1~2年程度と、非常に短いスパンで製品を展開していくケースが増えていると感じます。そんな中で、既に8年以上、実質的にShureのフラッグシップイヤホンとして居座り続けているのはSE846の総合的な完成度の高さとそれによる根強い人気の裏付けだと思います。発売当時の風潮として、限られた筐体の体積の中にできる限り多数のドライバを詰め込んだやつが強い!高音質!みたいな価値観があり、ハイエンド機は搭載ドライバ数を増やすために大型化していく傾向にありました。そんな中で、貴重な筐体内の体積をドライバ数を増やすために使うのではなく、アコースティックな機構を用いた音響チューニングのために使用するという設計を、実験的なモデルならまだしもフラッグシップモデルで採用するというのはかなり勇気のいる決断だったのではないかと思います。結果として、小型のBAドライバをひたすら詰め込むことによる音質向上はすぐに頭打ちを迎え、最近ではフルBAのモデルにおいても筐体内の形状や体積、ドライバの位置などを厳密に設計した、アコースティックな音質調整を担う音響チャンバー構造を持つモデルが増えてきており、SE846は時代を2歩も3歩も先取りした設計思想を持っていたと言えるかもしれません。