ポタオデと音楽

ポータブルオーディオ機器と音楽についての感想・レビューをぱらぱらと。

Astell&Kern SOLARIS X

[レビュー] Astell&Kern SOLARIS X

f:id:AruponnDX:20220111001608j:image

■製品仕様・特徴など

Astell&Kernブランドで販売されていましたが、製造自体はCampfire Audioによるもので、同社のフラッグシップモデルであるSOLARISをベースに、搭載ドライバの変更も含めた特別チューニングが行われた、日本では限定30台の貴重なモデルになります。

3ドライバ 3ウェイ で中低域にダイナミックドライバ、中域と高域にBAドライバを使用する比較的シンプルかつ典型的なハイブリッドタイプのドライバ構成で、通常モデルのSOLARISと比較すると、高域用のBAドライバが2機から1機に減らされていますが、その代わりにSOLARIS X用に特別設計されたカスタムBAドライバが搭載されています。

筐体はCampfire Audioらしいメカニカルでシックな金属筐体と、Astell&Kernらしい高級感のある深紅のフェイスプレートが組み合わさっており、全体的にはハイエンドにふさわしい質感の高さを感じさせます。

純正付属ケーブルとして質の高いALO AudioのPure Silver Litzケーブル(MMCX - 2.5mm4極バランスプラグ)が付属している他、3.5mmアンバランス接続用に同じ線材を使用した2.5mm - 3.5mm変換ケーブルが付属するのは嬉しいポイントです(可能であれば2.5mm - 4.4mm変換ケーブルも付属して欲しい所でしたが。。。)。Pure Silver Litzケーブルは細めで非常に柔らかく取り回しに優れ、音質的にも際立ったクセが無く非常に使いやすいケーブルで、ほとんどの人はリケーブルの必要性を感じないのではないかと思います。

Astell&KernのDAPなどに合わせてチューニングされたとのことで、デザインだけでなく音質面についてもオリジナルのSOLARISからどのように変化しているのか非常に興味深いです、

■試聴環境

DAP : Cayin N6ii-Ti (R01モジュール)

・接続 :  ALO Audio Gold 16 IEM Cable MMCX - 4.4mm5極バランス

・イヤーピース : SednaEarfit Crystal

■サマリー

・[モニター] - - - - 〇 [リスニング]

・帯域バランス : 低域 > 中域 = 高域

・音場 : [広] - 〇 - - - [狭]

・定位 : [正確] - - 〇 - - [曖昧]

・解像度 : [良] - 〇 - - - [悪]

・音漏れ・遮音性 : [良] - - - 〇 - [悪]

・装着感 : [良] - 〇 - - - [悪]

■全体的な音質傾向

一言で言うと、ハイブリッド型らしく低域はズンズン、中域は近くでクッキリ、高域は鋭めにシャンシャンと、全体的に派手めで臨場感、躍動感に溢れた鳴りのリスニング特化モデルです。

各音のエッジ、粒立ち感は特別強調されてはおらず、自然な鳴り方に感じます。

音の太さについては特に低域と中域が太めで密度感があります。一方で高域の線はそこまで太くなく、どちらかというとシャープで鋭い鳴り方に聞こえます。

音の響き、余韻の表現は豊かで、元の音源にプラスアルファの空間の広がり感や音に包まれるような臨場感を付与しているように感じます。その反面、定位感はハイエンド機にしては若干緩めで、ある程度大きな空間から鳴っているように感じます。

非常にリスニング寄りの出音で、原音に忠実に鳴らすというよりも、自身のキャラクターで濃いめに味付けして鳴らす印象で、開放感ある広めの音場表現や、各音の響き、余韻の豊かさを武器に、音源の臨場感や躍動感を引き出すのが非常に得意なイヤホンに感じます。

■帯域バランス

低域 > 中域 = 高域

帯域バランス的にはダイナミックドライバが割り当てられた低域、中低域の量感が豊かで、それにしっかりと下支えされる形で伸びやかに中域と高域が鳴る印象を受けます。

低域はダイナミックドライバらしくローエンドまでしっかりと出て、量感も豊かです。輪郭は多少甘くどちらかというと広がりのある傾向ですが、位置的にボーカルなどの中域とはしっかりと距離を置かれた位置で鳴るため、他の帯域に干渉して篭りを感じるなどの悪影響は感じません。

中域はBAドライバらしい明瞭な鳴り方で、低域と比べるとハキハキとして多少固さを感じることもありますが、つながりの悪さなどの違和感を感じるほどではありません。低域が主張してくる中でもセンターに位置するボーカルはかなり前に出てきて聞き取りやすいですが、左右に振られた中域の楽器群の音はボーカルと比較すると多少ぼやけてまとまって聞こえることがあります。

高域については中域以上にBAドライバらしい硬質で金属的な鳴り方で、他帯域と比較すると線も細めのため鋭さを感じることがあります。伸び自体も良い印象です。これを高域が鮮明で良いと取るか耳障りと取るかは好みの範疇の話かと思います。

■音場・定位・解像度

イヤホンの平均からすると音場はかなり広く開放的に感じます。良く沈み広がる低域と良く伸び明瞭な高域とで上下に引っ張られる形で、特に縦方向に広く感じます。横方向への広がり感も十分に良いですが、縦方向と比較すると音数が多い場合などには左右に振られた楽器群の音が混ざるなどで多少の窮屈さを感じることがあります。

定位感はハイエンドにしては甘めで、広めの空間から音が響いているような多少滲んだ鳴り方で、音の発生源が正確に定まっているという印象は薄いです。

解像度については十分良く、ある程度の音数までであればしっかりと分離して鳴らし分け、各音のディテールの描写も中域、高域については十分細かいです。ですが、甘めの定位感と太めな音の兼ね合いで、音数が増えてくると特に左右に振られた中域の楽器群がごちゃついてくる印象があります。

■音漏れ・遮音性

イヤホン本体に大きめのベントがあり、そこからかなり大きめの音漏れがあります。更に良くないことに、ノズル部分を塞ぐと音の抜け道が少なくなるせいか、より激しく音漏れするようになります。筐体内の空間での音の響きを利用したチューニングとなっていることがありありと伝わってくるようです。

また、本体のカナル部分がかなり長めに設計されており、装着時に筐体が耳に密着せず浮いている状態になるため、遮音性については完全にイヤーピース頼りになり、筐体自体も密着して耳穴を塞ぐモデルと比較すると遮音性は劣りがちとなります。

総合すると、遮音性は平均程度から多少悪い程度で、音漏れに関してはかなり大きめのため、騒音下での移動(電車など)を伴うポータブル利用には向いていません。

■装着感

ステム部が長めに作られているため、イヤーピースの選択さえ間違えなければ装着できないということは少なく、他のCampfire Audio製品のような角張りも無い滑らかな形状のため、比較的快適な装着感を得られると思います。筐体自体の大きさも初代のSOLARISから小型化されており、よほど耳が小さく無い限りは大きさが問題になることは無くなったのでは無いかと思います。一方で、耳のくぼみ部分へのイヤホン本体の密着度が乏しく、イヤーピースとケーブルの耳掛け部分で本体を支えるかたちになりがちな点は問題かもしれません。

■その他、備考

Campfire Audioの製品には興味はあるのですが今までほとんど聞いたことが無く、SOLARIS XがCampfire Audioらしい製品なのかそうでないのかはわかりませんが、音の傾向としては非常にリスニング寄りで楽しく音楽が聴けるため好きなタイプです。しかし、密閉型イヤホンとしてはかなり大き目な音漏れのせいで、もともと想定していたポータブル用途での利用が難しそうなことから、購入後 1~2時間程度の試聴だけして以降は保管しているだけの非常にもったいない状況になっています。

あまり音量を上げずに聞く人にとっては、音漏れが問題にならずポータブル用途での使用もできる可能性があるため、そういった、しっかり使い込んでくれる方にお譲りできたらと考えています。